結婚して間もなくの頃
若い二人はまだ学生で
飛鳥地方や東北を旅したり
していました。
貧しい旅ですから
旅館なんてとんでもない
野宿と夜行列車です。
あるとき飛鳥川のほとりで
飯ごうでご飯を炊きました。
水は近くの家からもらって。
清らかな水に足をつけたりして
若いときにはいろんなことが
できるものですね。
ずっとあとになって
万葉集に素敵な歌があるのを知りました、
許されぬ恋をした皇女(高市皇子の妻)が
穂積の皇子に恋をするのですが
人目があるので朝早く飛鳥川を越えて
恋人に会いにゆくという歌。
{人言を 繁み言痛(こちた)み己が世に いまだ渡らぬ朝 川渡る}
いいなあ、大胆で清冽で
と思う私は
結婚してから家族を捨ててまで
と思う人には出会うこともなく
一応責任を全うしつつ
人生の終わりを
迎えようとしています。
が
あの飛鳥川
あの頃はあたりも
まだ人家も少なくて
川辺でご飯も炊けたのでした。
清冽な川辺の思い出です。