Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ザザムシ漁の今

2018-12-25 23:17:40 | 民俗学

 

 会社の同僚の父親がザザムシ漁をされていると以前から聞いていて、いつか話を聞きに行きたいと思っていのだが、民俗調査をされている知り合いに頼まれたこともきっかけとなって、本日午前中に行われたザザムシ採りにうかがった。

 「虫踏許可証」と書かれた腕章は、天竜川漁協から出されている。今は年間1万5千円だという。この許可証を手に入れる人の数は、もう絶滅危惧状態のようだ。12月1日が解禁日で、2月末までの3ヶ月が漁期となるが、毎年解禁日ともなると報道が入って新聞などで報道されるので、そこそこの方がこの許可証を手に入れ漁をされているのかと思ったら、今や10人に満たないという。それどころか、箕輪、伊那、駒ヶ根それぞれで2名分程度ではないかという。かつて盛んだった時代には70名ほどいたという虫踏者も、まさに絶滅寸前という状況。報道されるイメージと現実の乖離がここにある。

 「今では伊那ではわたしだけ」というからみながご存知なのだろうが、現在も毎年この許可証を持って漁をされているのは中村さんだけ。独りで漁に入ることもあるが、たいてい2人で行かれているようで、その時のために2人分の許可証を毎年手に入れるという。漁に入るからには人数分の許可証がなくてはいけないらしく、中村さんが2人分の許可証を求めて手伝ってもらえる方に声をかけているという。よその人もそうではないか、と中村さんは言うから、ザザムシ漁に携わっている直接的人数はもっと少ないということになる。ザザムシといえば「伊那」というイメージを持たれているが、現状からみれば、中村さんが辞めたら途絶えるというわけだ。

 上伊那で大きな災害があったのは平成18年のこと。この時天竜川も大きく荒れたわけだが、その復旧で河川工事があちこちで行われ、天竜川は中村さんに言わせれば「U字溝になってしまった」という。綺麗になったおかげで、洪水になると、綺麗に流してしまうという。「ザザ」で獲るから「ザザムシ」と言われると、その語源を口にされる「ザザ」は、川の中に小刻みな波を見せるような浅瀬を言う。川が均一化されて、そういう場所が少なくなったという。この平成18年を境に、ザザムシの収獲量は変わったという。それまでは1日2時間ほどの漁をすれば3キロとか4キロ採れるものだったが、今はせいぜい1キロほど。とても商売する人に渡すほどは採れないといい、今はほとんど自家消費だという。とはいえ自家で消費するわけではなく、知人や周囲の人々に料理をした上で譲っているという。

 相棒と2人で漁をするのは、後ろで相棒に川底をマングワで掻き起こしてもらって、中村さんが足踏みをして四つ手網にザザムシを捕獲していくためだ。1人でもできないことはないが、中村さんも歳を重ねておられるから、この方がスムーズに収獲できるようだ。やれば少なからず収獲できるから、誰でもやろうとすればできないことではないが、この足踏許可証を手に入れるには、天竜川漁協の株を手に入れる必要がある。昔よりは川釣りをする人は減っているので手に入れやすいのではないかというが、それでもザザムシに手を出す人はほとんどいない。これを地域の文化だとすれば、もはや無形文化財級なのだが、関係者はどう捉えているのか…。

続 ザザムシ漁の今


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