王滝村の中心部から溝口川を遡ること4キロほどのところに「王滝の湯」という温泉がある。2キロほどのところから上は未舗装道路だが、おおかたの車なら行けないことはないが、「この先に本当にあるのだろうか」と思うほど人里からはほど遠い寂しさを抱く環境。道端には「あきらめないでね」と誘導する看板も立つ。たどり着いた王滝の湯の玄関先に貼りだされた開業日を見てみると、7月は土日のみの営業。8月に入ると盆過ぎまでは毎日営業しているようだ。人里離れているということもあって、毎日営業するには耐えないものがあるのだろう。
この3連休を草刈りに精を出して、そのまま火曜日から猛暑日近い暑さの中を3日間現場に出ていると身体にこたえる。3日目の今日は王滝村の現場を訪れた。遅い昼をとろうと先輩とともに山つけの日陰を探して溝口川の谷に入り込んだ。冒頭の「王滝の湯」という看板を見てどんなところなんだろうとそのまま日陰を探してこの道を進んだ。一度入り込んだ以上はそこまで行こうと進んだのだが、温泉に入ろうというわけではなく、単なる日陰探しの「前進」だった。少し前方が開けたところにこの王滝の湯という建物が登場した。正面には御岳山が見え、沢筋には雪を残す姿を見るも、王滝もこの日は暑かった。溝口川を遡る道筋には数軒の家があったが、廃屋となっている建物も多い。さすがにこの山奥にはいまだ過疎は現在形で進んでいるようだ。
休業ということもあって王滝の湯の屋外にあった椅子を借りて昼をとり、いつもの通り少し周囲を散策する。温泉施設の周囲にもいくらか蝶が飛んでいたが、ここまでたどり着いた未舗装の道まで戻ってみると、未舗装の道路上にたくさんの蝶が舞い降りている。多くはコムラサキであるが、はっきりとは確認できないがテングチョウなどタテハチョウ系の蝶がたくさんいる。それらは道路上に舞い降りて盛んに蜜(?)を吸っているようなのだ。そんな様子を近くでうかがおうとしゃがんで見ているとミツバチやら蝶やらわたしの身体にまとわり付くように集まってくる。まるで昆虫の世界に同化していくような気分に陥る。なかにはわたしの手に止まったまま少しくらい手を振っても飛び立とうとしない蝶もいたりして、そのままずっとそこにたたずんでいればさらにこの世界に溶けていってしまいそうなのだ。これほど多くの蝶がいる空間に出くわしたことは今までなかった。よくみると路面に身体を横たえてしまっているコムラサキもいて、たった今車に踏まれてしまったのではないかという感じなのである。もちろんここにいるのはわたしたちだけであるから、王滝の湯に来る際にわたしたちが踏んでしまったものなのだろう。運転していたときは気がつかなかったがそれほど路面に蝶がたくさん舞い降りているのである。
「暑い」と思った王滝から下界である伊那まで降りてくると、その空気のなま暖かさは王滝とは比較にならないほどのものだった。
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