はじめに
職員のメンタルヘルス、不詳事故の防止という観点から、課長以上の幹部職員による受け持ち職員に対する面接制度が設けられていたのです。
ところが、ある一人の課長が、白紙の面接記録表を職員に配布し、受け持ち職員に現在の心身の状況や悩みなどを記載させ、この面接記録表を職員から受け取る時、「ここに記載した以外に特に悩み等はないですか?」と質問し、職員は「特にありません」と答え「じゃ、今後もしっかり頑張ってくださいね。」とお願いして面接したことにするという、1件当たり約10秒で終わる面接をしていたことが判明しました。時には「これだけ?」「ハイ」「了解」ってな具合で終わる面接もあるということなんです。
こういう形ばかりの面接が行われているという実態が明らかになり、私はがっかりしたわけなんです。
面接官を務める課長の悩み
監査や協議会等では、「風通しの良い明るい職場を作るために課長以上による一般職員への面接制度を設け、有効に機能させている」等とアピールし、これが評価されているのです。しかし、その実態は上記に書いたようなものでした。こういうまやかしの仕事をしていたら、部下職員の手抜き仕事にも文句が言えなくなります。それどころか、「見栄えさえ整えることができれば、要領よく仕事をゴマかしてもいいですよ。」と幹部が教えているようなものだと思うのです。
これは、しっかりとした面接制度にする必要があると考えました。私の姿勢というものを示す必要もあると考えたのです。幹部に対しても部下職員に対してもですね。
しかし、面接官をする課長には課長なりの悩みがあったわけなんです。
この職場ではこの面接が年に2回行われていました。
その理由は、本部から職員の不詳事故防止やメンタルヘルスに気を配るようにとの指示がなされ、これに応えるべくなんらかの対策を講じる必要があるということで、職員研修を増やしたり、面接制度を充実させるという方法を採用したというものです。
そして、面接制度を起案させれた幹部というのが、この手抜きの面接をしていた課長だったのです。
私「自分で面接制度を作っておきながら、自ら手抜きをするのは何事だ!」と叱り飛ばしてやろうと思いました。
ところがです。課長には課長なりの悩みがあったのです。
この課長は受け持ち職員が60人を超える、その職場で中枢をになうところの課長でした。中枢の課長ですので、忙しいわけです。日ごろの業務も忙しいのですね。
そこに持って来て、不詳事故防止やメンタルヘルスのための対策を何か考えなさいよという指示がトップからこの課長になされるわけです。
所帯は大きく職員への影響も大きいし、中枢となる部署の課長ですので、なんとかトップの要請に応えたいという気持ちもあります。
しかし、実際にはこうした制度を作るという作業は煩雑で、他の課長の意見も聞かなければならない等で難しいのです。
また、本来の業務以外の仕事という感じもあり、本来の業務を処理するだけでも大変なのに、そんなものにエネルギーを費やせないという思いもあるわけです。
そこで、対応策を考えろと言われた際、従来年1回行われていた課長による受け持ち職員への面接を2回に増やしたというわけです。
起案は、すぐにできました。
従来の規則にある「年1回の面接実施」を「年2回の面接実施」に変えるだけでいいのですから。
職場の対応としても、「面接制度を充実させた」という言い訳ができるようになったのです。
しかし、これを運用するとなるとなると大変でした。
この課長の受け持ち職員は60人を超えています。
一人15分の面接をしてもですね、15時間くらいかかる計算になります。
話した内容を面接表に記録するということになると、さらに時間を要します。
また、深刻な問題が出てきたら、これはその解決に力を注がなければなりませんから、本来の業務どころではなくなってしまうのです。
そうなんです。そもそも、この面接制度の運用は無理があるわけです。課長だってなんとかしろとトップに指示され、忙しい中苦肉の策でこの制度を立ち上げたわけですが、その制度の運用は鼻から無理があり、まったく太刀打ちできない状態にあったのでした。
職員の相談に等乗っておれないのです。
職員もまたそのことは分かっているので、形ばかりの面接に付き合っているという状態です。
現場の職員に尋ねてみれば
「課長に、悩みありますか?と尋ねられてもですよ。課長のほうが毎日忙しそうにして、仕事に悩んでる感じでしょ。あんたのほうが大丈夫ですか?って感じで、とても相談なんかできる状態ではないですよ。いい課長さんだし、これ以上悩ませてはいけません。」
という状態です。
課長も一生懸命やってくれているのですが、そもそも、この面接制度の運用は機能しにくい状態になっているわけなんですね。
そこで、私はまったく新しいタイプの面接制度を提案したわけなんです。
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