2015年12月11日(金)
今日は、強風。マンションだから、風の音が物凄い。
そこで、一日、年賀状の準備をした。
絵入りの年賀状に、あいさつ文の判子をペタン、ペタン、ですけれど。
そこで、きょうは、エッセイを・・。(文中 仮名)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「財布を拾う」
読書会の暑気払いを隣町のフレンチレストランですることになって、お仲間と五人で連れだって、
電車で出かけた。私は、並んで座った倉島さんと、
「一駅でも、お出かけ気分よね」「なんか田舎者になっちゃったわね」
と、話し、向側に座った津田さん、岡野さん、高田さんは、昼前の空いた車内に響くような声で
笑いあっていた。
改札を出て歩き出した私は、駅前薬局の前の歩道に、青い長財布が落ちているのを見つけた。
「お財布が落ちている!」と言うと、すぐ、他の四人も、寄って来た。津田さんが、拾い上げるや、
「誰が落としたのかしら?」と、躊躇なく財布を開けた。私が、
「あ、いや、交番に届けようよ……」と、たじろぎながら上げた声は届かないようで、
「困っているんじゃない。電話してあげようよ」「そう、電話してあげたらいいよ」
と、岡野さん、高田さんも財布を覗き込む。「そうね」と、言うように倉島さんも微笑んでいる。
彼女たちの善意の勢いの前に、
〈でも、もし、その財布が、お金を抜かれて捨てられていたとして、持ち主が、中味のお札が無い
とか言い出したら、どうするの?〉
と考えてしまう私のほうが、後ろ暗く感じてしまう。その間も、津田さんは、
「何か、電話番号が分かるものがあると良いわね」と、財布の中のカード類を引き出し、
「家に電話してあげよう」と、岡野さんは、自分の携帯電話を手にする。
「あの、交番に届けて、そっちから、連絡してもらったほうが……」
と、声が小さくなりながら言ってみるが、
「お店の会員カードがあるけれど、電話番号は……、ダメね」という声に、
みんなの耳が向いているようだ。
会ったこともない相手のプライバシーに踏み込まないのが常識と思うのは、
この場では私だけのようで、
「私のこの距離感は、冷たいのだろうか?」と、思えてくる。
すぐに、津田さんの指が一枚のカードを摘み上げた。
「あら、生徒証がある。高校生だわ」
私も思わず、その手元を見ると、真面目そうな男の子の写真が付いていた。
「高校生か。学校に電話する?」と、岡野さん。
「学校も電話されても……。先生が取りに来るの?こっちが、届けるの?」と、
高田さんが現実的なことを話し出すと、倉島さんが、
「あの~、お店の予約の時間、大丈夫かしら?」
と、遠慮がちに言い出した。ここぞとばかり、私も、
「森さんが直接お店に行っているでしょ。みんなが時間になっても行かないと、
彼女も心配するんじゃないかしら?」と、強く言う。時間のことに気づいたか、津田さんが、
「やっぱり、交番に届けよう」
と、言い出し、私は、ほっとした。交番なら、近くだ。津田さんが、
「そうね、森さんが待っているから、お店に行く人と、交番に寄る人と、二手に分かれましょう」
と、言い出した時、急に、
「あ、あの子だ」と、声をあげたので、振り返ると、一人の男子高校生が、駅のほうから走ってくる。
私は、生徒証の写真をはっきり覚えたわけではないけれど、焦ったような雰囲気で、当人だろうな
という感じはした。近づいたその高校生に、津田さんは、
「お財布、落としたんでしょう?はい、これ」
と、財布を差し出し、彼は、「すみません」と、受け取った。
間違いなく、当人のようで、私たちは、
「良かった、良かった」と、言い、すぐ、お店に向かって歩き出した。
〈落し物、私一人だったら、中を見ないで交番へ持って行くけれど、おばさんパワーが加わると、
こんな風に、まろやかに解決してしまうんだな〉と、自分が加わりきれなかった善意へのこだわりが胸に、
少し残ったが、
「うわ、こっちの道、お店への遠回りだわ」という屈託ない皆の様子に、私も、終わりよければ、
それで正解とし、皆と一緒に足を速めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このエッセイ、勉強会で、
「ウィステさんの対応に、ほっとしますよ・・」
と、言ってもらえて、それこそ、ほっとしましたね。(^^)
今日は、強風。マンションだから、風の音が物凄い。
そこで、一日、年賀状の準備をした。
絵入りの年賀状に、あいさつ文の判子をペタン、ペタン、ですけれど。
そこで、きょうは、エッセイを・・。(文中 仮名)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「財布を拾う」
読書会の暑気払いを隣町のフレンチレストランですることになって、お仲間と五人で連れだって、
電車で出かけた。私は、並んで座った倉島さんと、
「一駅でも、お出かけ気分よね」「なんか田舎者になっちゃったわね」
と、話し、向側に座った津田さん、岡野さん、高田さんは、昼前の空いた車内に響くような声で
笑いあっていた。
改札を出て歩き出した私は、駅前薬局の前の歩道に、青い長財布が落ちているのを見つけた。
「お財布が落ちている!」と言うと、すぐ、他の四人も、寄って来た。津田さんが、拾い上げるや、
「誰が落としたのかしら?」と、躊躇なく財布を開けた。私が、
「あ、いや、交番に届けようよ……」と、たじろぎながら上げた声は届かないようで、
「困っているんじゃない。電話してあげようよ」「そう、電話してあげたらいいよ」
と、岡野さん、高田さんも財布を覗き込む。「そうね」と、言うように倉島さんも微笑んでいる。
彼女たちの善意の勢いの前に、
〈でも、もし、その財布が、お金を抜かれて捨てられていたとして、持ち主が、中味のお札が無い
とか言い出したら、どうするの?〉
と考えてしまう私のほうが、後ろ暗く感じてしまう。その間も、津田さんは、
「何か、電話番号が分かるものがあると良いわね」と、財布の中のカード類を引き出し、
「家に電話してあげよう」と、岡野さんは、自分の携帯電話を手にする。
「あの、交番に届けて、そっちから、連絡してもらったほうが……」
と、声が小さくなりながら言ってみるが、
「お店の会員カードがあるけれど、電話番号は……、ダメね」という声に、
みんなの耳が向いているようだ。
会ったこともない相手のプライバシーに踏み込まないのが常識と思うのは、
この場では私だけのようで、
「私のこの距離感は、冷たいのだろうか?」と、思えてくる。
すぐに、津田さんの指が一枚のカードを摘み上げた。
「あら、生徒証がある。高校生だわ」
私も思わず、その手元を見ると、真面目そうな男の子の写真が付いていた。
「高校生か。学校に電話する?」と、岡野さん。
「学校も電話されても……。先生が取りに来るの?こっちが、届けるの?」と、
高田さんが現実的なことを話し出すと、倉島さんが、
「あの~、お店の予約の時間、大丈夫かしら?」
と、遠慮がちに言い出した。ここぞとばかり、私も、
「森さんが直接お店に行っているでしょ。みんなが時間になっても行かないと、
彼女も心配するんじゃないかしら?」と、強く言う。時間のことに気づいたか、津田さんが、
「やっぱり、交番に届けよう」
と、言い出し、私は、ほっとした。交番なら、近くだ。津田さんが、
「そうね、森さんが待っているから、お店に行く人と、交番に寄る人と、二手に分かれましょう」
と、言い出した時、急に、
「あ、あの子だ」と、声をあげたので、振り返ると、一人の男子高校生が、駅のほうから走ってくる。
私は、生徒証の写真をはっきり覚えたわけではないけれど、焦ったような雰囲気で、当人だろうな
という感じはした。近づいたその高校生に、津田さんは、
「お財布、落としたんでしょう?はい、これ」
と、財布を差し出し、彼は、「すみません」と、受け取った。
間違いなく、当人のようで、私たちは、
「良かった、良かった」と、言い、すぐ、お店に向かって歩き出した。
〈落し物、私一人だったら、中を見ないで交番へ持って行くけれど、おばさんパワーが加わると、
こんな風に、まろやかに解決してしまうんだな〉と、自分が加わりきれなかった善意へのこだわりが胸に、
少し残ったが、
「うわ、こっちの道、お店への遠回りだわ」という屈託ない皆の様子に、私も、終わりよければ、
それで正解とし、皆と一緒に足を速めた。
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このエッセイ、勉強会で、
「ウィステさんの対応に、ほっとしますよ・・」
と、言ってもらえて、それこそ、ほっとしましたね。(^^)