だれもみなやはらかさうな唇をしてやさしくなりぬ「ふゆ」と言ふとき(楠田よはんな)
作者は「ふゆ」と言う人に「やはらかさうな唇をしてやさしくなりぬ」と感じた。
実際に言ってみて欲しい。
優しくなる。
短歌でなければ、なかなか表現出来ない日常の感受性。
僕の世界は孤独では少しだけ無くなる。
ゆえにまだやれそうであるメンチカツに条件反射でひらく舌先(古賀大介)
「メンチカツ」。
20代の頃、好んで食べた。
けれど、今はもうその名を聞くだけで条件反射で胃がもたれる予感。
「ひらく舌先」である事が、1つのバロメータなのだ。
きみの背にほくろの星座みつけたり世界が終はるならこんな夜 (橘夏生)
夜を共にした後、背中に見つけたほくろ。
ほくろを繋ぐと星座になった。
そこまでなら、とても幸せな気持ちになりそうだが、作者は「世界が終はるならこんな夜」だと感じる。
人は大きな幸せを前にすると恐れを感じる。
手にしたら瞬間から失うことを予感する。
きみが好き きみもいちばんきみが好き ふたりでゐてもあまるわたくし(真狩浪子)
「好き」以外は平仮名。
誰が「わたくし」を愛してくれるのか。
恋愛にも勝者がいて、敗者は苦い思いをする。
けれど、敗者にしか味わえない恋愛の味がある。