ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

詩、不在

2012-09-30 14:42:53 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
ここからはゆっくり飛んでいるように見える飛行機も実はものすごいスピードで飛んでいるということ。

もしも君に出会わない今があったとしたら僕は子供のままでいられたこと。

夜にも美術館の数々の絵画は相変わらず美しいが見る人がいないということ。

高い木の枝に巣を張り待ってばかりいる蜘蛛。

秋の街の向こうに夕陽が落ちたら輝きを少しずつ増す月。

太陽をしばらく直視したあと網膜に残る光。

坂の上から下までボンヤリとしたオレンジ色の川のように流れる街灯。

僕はいつでも何も聞きたくなくてイヤホン。

河原には打ち捨てられたスケートボード。

淋しくなっていくばかりの鼻歌。

救われる者の不在。

光り射す場所に間に合わなかった。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」美しき焦躁

2012-09-29 05:42:54 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
中空に白雲の戸は立ちゐしが宙(そら)もろともに夕闇に入る

中空にはまだ白雲があり夕闇には早いが、そんなことには関係なく宙もろともに夕闇になる。幕は降ろされるのだ。神の意志で。そしてまた幕が上がる。私達の意思とは関わりなく。そしてオペラのような人生は続く。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」美しき焦躁

2012-09-28 05:52:15 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
日すがらを犇(ひしめ)きし雲おとろへて楽(がく)しづかなるゆふぐれとなる

一日中、犇めきあっている雲は人間だ。しかし、その犇めきあいも衰えるゆふぐれ。楽もしづかになる。楽は音楽だ。この世の生の闘いのために鳴らされる音楽だ。まるでオペラのような。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」美しき焦躁

2012-09-27 05:49:51 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
黄色(わうしょくの太陽ひとつ手に入れて野をゆらゆらとかへりきたれり

黄色の太陽は向日葵だ。神の身代わりである。それを手に野をゆらゆらとかへりきたれり。ゆらゆらとかへりきたれる姿は美しき焦燥に身を焦がしたからだ。結果的に黄色の太陽しか手にいれることが出来なくても私には羨ましい。私は闘っていない。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」美しき焦躁

2012-09-26 04:54:46 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
立ち並ぶ樹幹のひとつ剥がれをりそは美しき焦燥に見ゆ

立ち並ぶだからたくさんの樹幹がある。そのひとつが剥がれていて、その樹幹が美しき焦燥に見える。樹幹が剥がれているのだから木肌だ。美しき焦燥は何に対する焦燥なのか。神になれない人であろうか。