寺山修司 夏美の歌、空の種子 2010-01-31 07:10:58 | クンストカンマー(美術収集室) 空のない窓が夏美のなかにあり小鳥のごとくわれを飛ばしむ 一読、閉塞感を感じる。窓はあるが空がないからだ。このことは夏美がまだ自己で世界を完結出来る程、幼いことを意味するのだろう。そんな幼い夏美の中を小鳥のように飛び回る。その奇跡のように純粋で壊れやすい愛が切ない。
森のやうに獣のように 河野裕子 2010-01-30 05:18:15 | クンストカンマー(美術収集室) 陽の下にわれを待ちゐし長身は薔薇の芽嗅ぐと不意にかがみぬ 待たしている相手を少し離れた場所から発見したのだろう。待っている人は無防備な姿をしている。そんな時に不意に薔薇の芽を嗅ぐ男。その行動に意味などなくても、セクシャルなもの感じてしまう。好きな人がすることは、何でも意味ありげに感じる。
詩「バケツ」 2010-01-29 06:06:02 | 詩 みんなそれぞれバケツを持っている。 そのバケツは大人ほど大きくなり子供のときは小さい。 何が入っているかというとヨッキュウフマンが入っている。 誰かのヨッキュウフマンがあふれると誰かのバケツに入る。 でも誰も自分のバケツにヨッキュウフマンを入れたくない。 だから背の引くい子供のバケツが狙われる。 そして子供のバケツはすぐにあふれてしまう。 あふれてしまったヨッキュウフマンは子供の中でもより小さい子供のバケツに入れられる。 大人のバケツは大きくて捨てる場所はたくさんある。 だから大人はちゃんと捨てよう。 もう子供のバケツにヨッキュウフマンが入れられるのは見たくない。
詩「火山と土星と大切な人」 2010-01-28 04:49:49 | 詩 僕の海中の最も深い場所にある休火山が、とてつもなく長い眠りから醒め、考えられる限りに用意周到に噴火の準備を始める。 一方、僕の宇宙の最も低い場所では土星がその周回軌道上を外れ、今にもすぐそこに姿を見せ始めようとしている。 またまたその一方、僕の大切な人達は相変わらず僕の手の平から溢れんばかりの、その自由さで落ちてしまいそうだ。 ああ、今日もどうにかそのいずれも起きていませんように、また起きませんようにと目を閉じる。そして、目を開ける。 また少し、マグマが温度を上げ、リングが回転を増し、指が僕の手から一本、また一本と外れていく。 ああ、僕はもうこの状態に我慢出来ない。 だから起こるのなら、今だ。今、この瞬間に起こればいい。 そう決めた時、火山はまた休火山になり、土星は軌道を修正し、大切な人は僕の手の平にはい上がった。
詩「木の葉を僕は」 2010-01-27 05:53:34 | 詩 君の声を聞いた。 寝ている僕の名を呼ぶ声を。 あまりに甘く僕の名を呼ぶので思わず目が覚めた。 そしたら君はそこに居て笑っているような、泣いているような顔で僕を見ていた。 僕は抱きしめようと思ったけれど、眠っていたかった。 しばらくして目を覚ますと君は眠ってしまっていた。 起こすのも悪い気がした僕はそのままにして眠った。 それから二度と抱きしめることは出来なかった。 今になって思う。 あの時に抱きしめられたかった君と、抱きしめられなかった僕との間には、川に流されてしまった木の葉のようにもはや、取り返しのつかない時間が流れてしまったと。 木の葉はいまどこを流れているのだろうか。 どこかに岩に張り付いているのか。 もう海にたどり着いたのか。 僕は想像する。 もしもあの木の葉を見つけることが出来たなら。 もしも木から落ちる前にその木の葉を見つけることが出来たなら。 けれどもう木の葉は見つからない。 永遠に。