ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

恍惚とするのは

2022-01-31 06:51:00 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
立ちしまま死に至る他なくば夜もなほ恍惚として金の向日葵 (河野裕子)

この向日葵は倒れて枯れない。

「金の向日葵」とは太陽に照らされる、いや、太陽を直視する向日葵。

けれど、作者が見ているのは夜。

夜を越えれば越えるほど、死が近くなる。

が、恍惚とする。

死が見えているから、生命が輝く。

死は孤独だが、やはり美しいのだろうか。

「死に至る他なくば」の言葉は死を不可避なものとして受け入れている。

だからこそ、「夜もなほ」生命を輝かせる。


鰯の群れ

2022-01-30 21:40:00 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
鰯雲(いわしぐも)人に告ぐべきことならず
加藤楸邨

鰯雲は沢山の小さな雲の集まり。

鰯は沢山の弱い小魚の集まり。

そんな中にいても、告ぐべきことではないことがある。

共感は孤独を曖昧にする。

何一つ解決していないのに。

けれど、共感が欲しい。

弱いものたちにしか、得られない共感であっても。

共感を得られれば孤独ではないのか。

共感は麻薬。

一度でも味わうと何を犠牲にしても欲しくなる。

例え、嘘でも。

嘘は孤独を補強する。



希望の影

2022-01-29 08:18:00 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
身ごもらぬ私のお腹に風孕み丸く膨らむチュニックを見る(立原さやか)

切望し、失望する。

そして、少しだけ希望を抱く。

繰り返し繰り返し。

人は希望を捨てられない。

希望は失望を影に持つ。

彼女は一瞬、風に孕んだチュニックを見た。

孕む。その言葉を選んだ。

失望は分かち合えない。

絶対に。

どんなに大切な人とも。

孤独は失望。



どんな声だったのだろう。

2022-01-29 07:53:42 | クンストカンマー(美術収集室)短歌

きちんと育てられたんやねと君は言ふ私の闇に触れてゐるのに(勺禰子)

人は見たいように見たいものしか見ない。

私の闇に触れる。

「きちんと育てられたんやね」と言った人。

その人が触れた。

手で。言葉で。視線で。

けれど、その人は自分が触れている闇には気付かない。

どちらが孤独なのだろう。

お互いが孤独だと思う。

永遠に分かり合えないから、人は永遠に理解しようとしてしまうのだろう。

孤独とは互いを理解するための力。

 


ギロチン

2022-01-29 07:25:39 | クンストカンマー(美術収集室)短歌

身をそらす虹の

絶巓

処刑台(高柳重信)

虹が見えるほどに、身をそらす。

虹の頂点が見える。

虹がギロチンのように見えた。

だから、処刑台なのだと思う。

何があったのか。日常ではない。

唯ならぬことがあった。

例えば、銃弾に倒れる。

例えば、車と衝突する。

死を意識する瞬間。

刹那。

この俳句の死は美しく描かれている。

まるで尊いもののように。

死は究極の孤独。

孤独は美しいという顔も持つのか。