ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

ニュースペーパーに風

2019-12-21 21:43:42 | 
一月(ひとつき)に一度の逢瀬僕たちは月の単位の記憶しかない

冬の昼、冬の海岸、冬の犬、冬のポケット、冬の耳たぶ。

戦争を知らぬ時代の恋をするティッシュ・デニッシュ・ニュースペーパー

果てしなく近づくけれど同位置に立てない君の体が邪魔で

この先に行きたい僕と今のない君が奏でる冬のウクレレ

ポケットに手を入れないで帰りきてぬくい背中に手を差し入れる

白樺のような背中に僕はただゆっくりもたれ目を閉じている

雨が雪、嘘が謎へと変わるまで地球よ早く早く転がれ

震えてる。あなたは空を見上げてる。積もるつもりのない雪が降る。

僕は立ち君もゆっくり立ちあがり強い風吹き冬は終わった

春の土手、春のそよ風、春の鳥、春の静寂、春の横顔。

君の手を離したようにゆっくりと浅い春泥踏みしめて行く

春ルルル。春風。僕らいつからか花言葉しか話せぬ病

正論で譲らぬままに乗る電車君は隣の隣に座る

「えいえん」と何度も祈りベルリンの壁の写真をじっと眺める

雨ざくら 今日よりのちは一瞬もわたしのことを赦さずにいよ

日報に晴れと記したその後に降る雨垂れをきみと見ていた

じゃれあって転がるベット梅雨空は僕らを包む六月の繭

夏の街、夏の雨傘、夏の猫、夏の雷鳴、夏の首筋。

トンネルを抜ければ窓に映る君ひかりが包み連れ去っていく

伝えたいことの案外少なくて無言で君の胸をまさぐる

ただ君を抱くためだけに会いに行くポテトチップスみたいな昼月

秋の夜、秋の自転車、秋の木々、秋の寄り道、秋の前髪。

信号を見ている僕とその先の空を見ている君との無言

きみがいてきみがいなくているようなどっちでもいいような雨

肌寒い風、秋、ほら、たくさんの落ち葉がきみの嘘のように降る

ライバルを倒したのちのヒーローの背に吹く風のような性愛

幾百の方法、否、唯一の手段、下せない決断、恋は

すでにもう過ぎてしまったことなんだ名のない風のひとつに触れる

風のない日の帆のようなジャケットを着ていた君の背を忘れよう