ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

短歌人11月号

2012-10-31 06:02:17 | 結社提出歌
君のため白詰草を摘んだ指、他の女の首に這わせる

風のない日の帆のようなジャケットを着ていた君の背を忘れよう

七月の大半が梅雨大切な人が他にもいて君を抱く

驚いて首を傾げた鳩みたい写真の君はどの表情も

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」風抱く訪問者

2012-10-30 04:51:16 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
踏み分くるひと足ごとに綿毛舞ふわれは風抱く訪問者なり

どの一首もそうだがこの一首も映画のワンシーンのように映像が流れる。絵画ではなく時間が存在するのだ。それは踏み分ける→綿毛舞うという二つの現象が表現されているからだ。この風抱く訪問者とはタンポポの視線だ。見えない生物や自由に変えられる視線。私が私の世界を変えるのは想像力だけで充分だ。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」風抱く訪問者

2012-10-29 05:51:57 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
霜月の朝の翼はまぶしかりをりふし銀色(ぎん)のしづくを垂らす

この翼を持つ生物は鳥だ。とてつなく大きくて美しい。その鳥が霜月の朝にのみをりふし銀色のしづくを垂らす。作者の見ている世界はとても豊かで美しい。この鳥は私の前にもときどき姿を現すようになった。

詩、悲しみはもともと静かに

2012-10-28 07:14:02 | 
生きていくことはそれだけで悲しい

その悲しみは私のなかの奥深く

ちょうど胃の上のほうの

なんともいえない絶妙な部位にあり

ときどき忘れないように微妙に揺れる

音を立てないように

静かに静かに

ゆっくりと

もともとの静けさを装うように

まるで何もなかったように

生きていくだけで悲しいなんて

なかったように

言葉を交わすことも

髪を撫でることも

胸をさすることも

射精することも

全部、悲しい



阪森郁代「ランボオ連れて風の中」色褪せしわれ

2012-10-27 02:17:57 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
見えてくる鳥の影あり今ならばわが呼ぶこゑは空にとどまる

いつも空を素通りしていくこゑ。しかし、見えてくる鳥の影がある今ならとどめることご出来る。鳥によって。空に記憶させることが出来るのだ。自然という美しさの極致にいるものとの同化。それを願うことは人を神にする行為だ。