ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

詩、安曇川

2012-12-31 05:56:42 | 
あなたに会うためだけに湖西線に乗って安曇川駅に降りる

一ヶ月にたった一度だけ

あなたは水色の軽自動車で迎えに来てくれる

そしたら車で琵琶湖沿いを走る

年上の人

とても綺麗な人

とても正直な人

とても真剣な人

とても不器用な人

とても淋しい人

あなたと何度も抱き合ったけれど

あなたに触れた気がしない

いつもどこかがすり抜ける

琵琶湖に降る雪があなたの水色の車にも降る

そして湖面やアスファルト、フロントガラスに消える

けれど雪は確かに舞っていて

あなたに会うために湖西線に乗る

京都駅から

もしかしたらあなたは僕のことを愛してくれているのかも知れない

けれど僕はまた弱さで人を信じられない

僕は確かに湖西線に乗ってあなたの住む街を目指す

あなたが僕にくれる肌の温度

切りすぎた前髪がおでこで綺麗に揃っているあなたは手を放してしまった風船を見上げる少女みたいで

僕は本当に僕の弱さが嫌いになって

あなたを強く欲しくなって

ゆっくりと雪が消えてゆくのを見ていた


阪森郁代「ランボオ連れて風の中」春の踊り子

2012-12-30 04:51:37 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
好まざる花と言いつつひとしきり子は遊びたりその花かげに

子にとってこの花は嫌いだがその感情はあまりどうでもいいこと。感覚で言っただけなのだ。だから近寄ってその花かげに遊ぶ。まるでそんな感情などはなかったように。しかし、母はその花の精が意地悪をしないか心配なのだ。不幸を連れてこないかが。

阪森郁代「ランボオ連れて風の中」春の踊り子

2012-12-29 05:56:41 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
つば広き帽子少女にかむせたり肩に五月のひかりを添へて

一枚の絵画が浮かぶ。真ん中にはつば広き帽子をもって少女にかぶせる母。少女の肩には五月のひかり。舞台はテラスの椅子。幸せな光景。もちろん、幸せな気持ちを直接表現する言葉はない。ないがこの光景のどこに不幸の影が見えるだろうか。