ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

近藤芳美 早春歌

2009-12-31 07:05:29 | クンストカンマー(美術収集室)
壊れたる柵を入り来て清き雪靴下ぬれて汝は従ふ

この歌のほとんどが事実(事実と思わせる)を述べている。
壊れた柵を入って来て雪に靴下が濡れたからお前は従う。
しかし、「清き」だけが主観である。この言葉だけて美しい相聞歌だと感じる。もしも、「深い」ならまた違った歌になるのではないだろうか。つまり清きは汝のイメージに重なっている。

行け帰ることなく 春日井健

2009-12-30 05:40:15 | クンストカンマー(美術収集室)
暴力は性のみにいまだ美しく若き素脚を草にくみふす

暴力とは結局、相手を征服するために使われる。そんな暴力でもいまだに美しいのは性のみだと言う。下句に生々しいエロスを感じるのは、若い素脚という絞り込まれた具体性と、草に組み伏す衝動のリアルさだろう。

郡黎 佐佐木幸綱

2009-12-29 07:09:20 | クンストカンマー(美術収集室)
イルカ飛ぶジャック・ナイフの瞬間もあっけなし吾は吾に永遠(とわ)に遠きや

イルカが飛んで落ちる寸前、時が止まって見える。しかし、そう見えるのは一瞬である。その対岸にあるのが吾という存在の遠さだ。永遠に時間を掛けてもたどり着けないもの。しかし、ジャック・ナイフが美しいように人間は懸命に動いている時が美しく、己に一番近付くのではないだろうか。

円型花壇 石川不二子

2009-12-28 04:50:12 | クンストカンマー(美術収集室)
みづみづしき相聞の歌など持たず疲れしときは君に倚りゆく

劇的な恋愛でなくても、疲れた時に寄り掛かることの出来るのも一つの愛だろう。
人は恋愛がなくても生きていけるが、愛がなければ生きていくことは辛い。心底疲れた時に自然に身を任せたくなる相手がいる。真に安心出来る存在でないと不可能だろう。それは幸せなことだ。

ひるがほ 河野裕子

2009-12-27 05:52:44 | クンストカンマー(美術収集室)
眠りゐる汝が背にのばすわが腕を寂しき夜の架橋と思ふ

人が眠る時、当たり前ではあるが一人だ。もしかして、本当に一人になれるのは眠る時だけかも知れない。
その背中に腕を伸ばした。手は届くのだけれど、本当に触れたい場所には届かない。
架橋とは強い願望を込めた言葉だろう。