これまで、 私はいろいろな創作物を書いた。
しかし「時代小説」と「童話」は、書いたことがない。
・・・と思っていたところ、
先日、荷物の整理をしていたところ、
なんと、遠い昔に書いた童話が、ひょっこり出てきた。
紛れもなく、私の書いたものだ(笑)。
しかも2編。
読んでみると、少なくとも、
私にとっては、面白いものだ。
でも、こういう童話は、
世間では評価されないことも、
わかっている。
読み直し、当時の私の心を思い出した。
そう!
この童話は、若い頃の私のために、書いたものだった。
いいではないか!
自分が好きなものを書く!
これが私の人生だ!
ちょっと、長いが、1編を掲載する。
本来は、縦書きです。
また、全文、ひらがな・・・で、書いてありました。
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ゆうひになったカエデ
ヒット大地
「ああ、きれいな、ゆうひだなあ!」
カエデは、おもわず、ためいきを、はきました。
やまのなか・・・
いっぽんの、カエデのきが、たっていました。
すぎや、ひのきや、まつのきに、まじって、ひっそりと、たっていました。
そのカエデのきが、うつくしい、ゆうひを、みて、なんども、つぶやくのでした。
「ああ、きれいな、ゆうひだなあ・・・ほんとうに、きれいだな・・・」
となりの、ケヤキのきは、とても、おしゃべりです。
すぐに、カエデに、はなしかけました。
「ゆうひも、いいけどさ・・・ぼくは、あおい、そらのほうが、いいな。
まっさおに、すみきった、おそら・・・こころが、とうめいに、なるような、きがするよ」
すぐに、カエデは、いいかえしました。
「ぼくは、ぜったい、ゆうひさ!おそらが、あんなに、まっかに、そまるなんて!」
こういうと、ふたたび、うっとりとした、かおで、ゆうひに、みいるのでした。
ケヤキが、はんろんしました。
「でも、ゆうひが、しずむと、もう、よるだよね。まっくらな、よるだよね。
よるは、こわいじゃないか。よるは、さむいじゃないか!」
こういうと、おしゃべりな、ケヤキは、カエデのかおを、みやりました。
カエデは、へいきでした。
「いいじゃないか!よるは、きゅうそくの、ときだよ・・・
みんなが、ねしずまって、しずかになるよね・・・
そういう、しずかな、じかんって、ボクは、すきだな」
ケヤキは、なっとくが、いきません。
すぐに、いいかえしました。
「ボクは、だいきらいだな。よるは、こわいし、さむいし・・・
だいたい、なにも、みえないのが、イヤだな。
なにも、みえないなんて、きみが、わるいよ」
「でも、つきのある、ひは、みえるだろ?」
「つきのない、ひは、ぜんぜん、みえないよ」
「・・・いいじゃないか・・そういう、ひが、あっても・・・」
といってから、カエデは、おもいだしたように、つづけました
「どうして、ゆうひが、すばらしいか、わかるかい?
・・・その、りゆうはね・・・すこしずつ、せかいが、かわっていくからさ
・・・ほら、いっぷんごと・・いや、10びょうごとに、かわっていく
・・・そこが、すばらしいじゃないか。
そう、おもわないかい?」
「フン」
ケヤキは、ハナで、わらいました。
とても、じぶんには、カエデの、きもちが、りかいできないと、おもったからです。
と、カエデは、うたを、うたいはじめました。
「ゆうひ ゆうひ
まっかな、ゆうひ
おそらも、くもも、あかねいろ
あんなに、きれいに、なれたなら
ボクは、しんでもいいだろう
ボクは、しんでもいいだろう」
すぐに、ケヤキは、おおわらいしました。
「ハハッハア、ヘンテコなうた!」
カエデは、くちを、とがらせて、はんろんしました。
「いいじゃないか!すきで、うたってるんだから!」
「フン、ごじゆうに!でも、やっぱり、ヘンテコな、うただよ!」
といいながらも、ケヤキは、こころのなかでは、カエデのきもちも、すこし、わかるような、きが、してきました。
(たしかに、ゆうひは、ときには、しぬほど、うつくしく、みえるもんな・・・)
ケヤキも、こころの、なかでは、そう、おもっているのでした。
こんな、かいわを、してから、けやきも、しだいに、ゆうひが、すきになりました。
でも、カエデの、ゾッコンぶりには、かないません。
カエデは、まいにち、ゆうひの、じこくになると、からだを、なげだすようにして、それに、みいるのです。
そんな、ともだちの、すがたを、みて、そのうち、ケヤキは、カエデに、はなしかけるのを、やめるようになりました。
ただ、じっと、ねっしんに、ゆうひを、みつめるカエデを、やさしく、みまもっているのでした。
でも、カエデも、ときどき、たまらず、おおきな、こえを、だすときがあります。
「うわー、すごいなあ!なんて、きれいな、くもなんだ!ピンクいろに、そまっているよ!
そして、あの、やまぎわ!あかねいろが、おびのように、ひろがっているよ!
なんて、すばらしいんだろう!なんて、すばらしいんだろう!
まるで、ゆめを、みているようだ!」
そんなとき、ケヤキも、やさしく、あいづちを、うちます。
「ほんとだね!こんなに、きれいってことは、あしたは、はれかもしれないね?」
でも、カエデは、なにも、こたえません。
あまりに、かんどうしてしまい、さいごには、こえも、でなくなって、しまうのでした。
いつのころからでしょうか?
カエデは、こんなことを、いうようになりました。
「ボクも、ゆうひのように、なりたいな・・・
あおい、はっぱじゃなくて、ゆうひのように、まっかな、はっぱになりたい。
そして、ゆうひのように、かがやきたいなあ!」
こんなとき、すぐに、ケヤキは、たしなめました。
「バカだなあ。はっぱが、あかく、なるってことは、しぬって、ことなんだぜ!」
カエデは、へいぜんと、いいかえしました。
「そんなの、しってるよ!でも、いったん、しんでも、また、はるに、いきかえれば、いいじゃないか!」
「・・・ま、それはそうだけど・・・そのあいだには、さむい、ふゆが、あるんだぜ!」
「だいじょうぶだよ。さむいときは、じっと、していれば、いいんだからね。ボクは、ふゆなんか、へいきさ」
「でも、はるや、なつのほうが、いいだろ?」
「いや、そうでも、ないよ。はるや、なつは、いそがしいからね。むしだって、いっぱい、ちかよってくるし」
「でも、むしは、とりが、たべてくれるよ」
「うん。でも、いろいろ、めんどうじゃない?えだを、のばしたり、ねっこから、いっぱい、ミズを、すったり・・・」
ケヤキは、おおごえで、わらいました。
「ハッハハ、でも、それが、いきるってことさ。すばらしいことじゃないか!」
と、カエデは、しずかな、くちょうで、いいました。
「そりゃ、そうさ。ボクは、はるも、なつも、きらいじゃないよ。
でも、しずかな、ふゆも、イヤじゃないって、いってるんだ・・・
そして、もちろん、アキもね!
・・・そう!ボクは、あきが、いちばん、すきなんだ!」
こんな、はなしをしてから、10かほどが、すぎました。
ある、あさのこと、カエデの、からだをみて、ケヤキが、おどろきの、こえを、だしました。
「カエデくん、きみの、せなか、だいぶ、あかくなってるよ!」
「え?」
カエデは、ふりかえりました。そして、うれしそうに、たずねました。
「ボクの、からだ、きょねんより、あかくなるかな?」
ケヤキは、ほほえんで、こたえました。
「うん。この、ちょうしだと、きょねんより、ずっと、あかくなるよ!」
カエデは、さけぶように、いいました。
「そお?うれしいな!ボクは、もっともっと、あかくなりたいんだ!
このまえみた、ゆうひのように、まっかに、なりたいんだ!
このまえみた、ゆうひのように!」
ケヤキは、じぶんのからだをみて、いいました。
「ああ、ボクは、きいろだ・・・ぜんぜん、あかく、なんないよ!」
カエデは、わらいながら、いいました。
「ハハハ、ケヤキくんは、あまり、ゆうひが、すきじゃないからだよ。
ボクは、ゆうひが、だいすき!だから、あかくなるんだよ!
ああ、もっともっと、あかくならないかな!
ゆうひのように、まっかに、なってほしいな!」
ケヤキは、ゆっくり、うなずきました。
「そうだね・・・そうなればいいね・・・
そういえば、きみは、この、はんとしかん、ずっと、ゆうひばかり、みてたもんな・・・
ゆうひを、みて、まいにち、かんどうしてたもんね・・・」
「うん・・・」
カエデは、いちねんを、ふりかえりながら、まんぞくそうに、うなずきました。
1しゅうかんが、たちました。
とても、さむい、あきの、あさのこと。
そらが、まっさおに、はれあがっていました。
ケヤキは、ともだちの、カエデのきを、みて、すっかり、おどろいて、しまいました。
カエデの、ぜんしんは、まっかに、そまっていたのです。
そのあかい、いろは、ばんしゅうの、あおぞらに、はえて、いきを、のむように、うつくしく、そまっていました。
さすがに、ケヤキも、あまりの、みごとさに、ためいきが、でてきました。
ひどく、かんどうしながら、カエデに、こえを、かけました。
「ねえ、カエデくん!きみ、すごいよ!とっても、きれいだよ!とってもとっても、きれいだよ!
ゆうひのように、すごいよ!いや、ゆうひよりも、みごとかもしれないな!
この、はんとしかんで、みた、いちばん、うつくしい、ゆうひよりも、もっと、きれいかもしれないよ!」
ですが、もう、カエデは、へんじを、しませんでした。
ふゆを、まえにして、もう、とうみんを、していたのです。
カエデが、へんじを、しないので、ケヤキは、きゅうに、とても、さみしくなりました。
ひとりで、こんなことを、つぶやきました。
「ああ、いよいよ、ことしも、おわりだな・・・そろそろ、ボクも、とうみん、しようかな・・・
ことしも、いろんなことが、あったな。ボクの、せは、1メートルも、のびた・・・
そういえば、3どくらい、きょうふうの、たいふうが、やってきたな・・・
あのときは、ふとい、えだも、おれるかと、おもったよ・・・
それから、かなり、おおきな、じしんもあった・・・
じめんが、すごく、ゆれて、いきたここちが、しなかったな・・・
そして、ああ・・・もう、ふゆかあ・・・さむい、ふゆかあ・・・
でも、すこし、がまんをすれば、すぐに、はるが、くる・・・
うん、あたたかい、はるを、ゆめみて・・・ボクも、とうみんしようっと・・・」
ケヤキは、めを、とじました。
と、このときでした。
つよい、こがらしが、ふいてきました。
あっというまに、ケヤキの、はっぱの、はんぶんほどが、じめんに、おちて、しまいました。
くろい、じめんは、すっかり、はっぱの、ジュウタンで、おおわれて、しまいました。
それは、みるも、あざやかな、きいろい、カーペットでした。
きいろい、カーペットと、ぬけるように、あおい、ふゆの、とうめいな、そら・・・。
そのあいだで・・・
カエデは、しばらくのあいだ・・・2しゅうかんほど、でしょうか?
・・・あかあかと、かがやいていました。
いきをのむような、みごとさで、あたりを、いあつするように・・・
そしてまた、やまぜんたいの、きぎに、あいされながら、ひっそりと、かがやいていました。
しかし、カエデの、あかい、はっぱも、すこしずつ、じめんに、おちはじめました。
カエデの、はっぱが、はんぶんほど、おちた、12月のはじめ、こなゆきが、ふりはじめました。
すべてのはっぱが、おちたとき、やまぜんたいは、まっしろい、こなゆきで、かんぜんに、おおわれてしまいました・・・
やまいちめんの、こなゆきは、たいようのしたで、きらきら、きらきらと、
まるで、ゆめのくにの、おおきな、おおきな、ほうせきばこのように、かがやいているのでした。