浮世風呂

日本の垢を落としたい。浮き世の憂さを晴らしたい。そんな大袈裟なものじゃないけれど・・・

イラン核合意が日本の安全保障に与えるインパクト

2015-08-29 05:26:36 | 資料

国連安保理、イラン核合意を正式承認 制裁解除への道開く

2015年07月21日 AFP

イランへの制裁解除でOPECはさらなる原油増産に? 米ニューヨークの国連本部で開かれた国連安保理の会合でイラン核開発をめぐる決議の採決を行う各国の代表ら(2015年7月20日撮影)。(c)AFP/JEWEL SAMAD〔AFPBB News〕

【7月21日 AFP】国連安全保障理事会(UN Security Council)は20日、イラン核計画をめぐって結ばれた歴史的合意を承認する決議を全会一致で採択した。これにより、同国経済をまひさせてきた制裁解除への道が開かれた。

 国連安保理常任理事国(米英中仏露)にドイツを加えた6か国(いわゆるP5+1)とイランは、2年近くにわたって続けてきた極めて重要な交渉の総仕上げとなる18日間に及ぶ協議を経て14日、ようやく画期的な最終合意に達した。20日の決議採択は国連がこの合意を正式承認したことを意味する。

 これによりイランが合意を守ることを前提に定められた段階的なプロセスが動き出し、2006年以降対イラン制裁を発動してきた7つの国連決議も解除される方向へ進むことになる。

 この決議は国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、IAEA)が「イランの核合意履行の確認と監視」を行うことになっている。

 イランに履行が求められている合意内容には核分裂性物質生産用の遠心分離機数の制限などが含まれている。今回の決議はイランにIAEAへの「全面的な協力」を求めている。

■解除される制裁、残る制裁

 安保理はIAEAから、イランの核計画が完全に平和的なものであるという報告を受け次第、先に出されている7つの対イラン制裁の国連決議は解除され、20日に新たに採択された決議の規定と差し替えられる。

 解除される制裁には、イランの核活動に関連する物品やサービスの貿易禁止、イランの指定された政府関係者や企業の資産凍結などがある。

 一方、通常兵器と弾道ミサイル技術の販売と輸出の禁止については、前者が5年間、後者が8年間継続されるという。

 もしイランがこれらの合意を履行しなかった場合、安保理はこれら多数の制裁を再発動する手続きを進めることができる。(c)AFP/Jennie MATTHEW

http://www.afpbb.com/articles/-/3054994?pid=16208870&ref=jbpress

◆シェール革命の風雲児が危ない
OPECの増産、中国経済の変調─なお続く原油の供給過剰状態

2015.07.27  藤 和彦 JB PRESS

 原油市場が再び弱気相場入りした。7月22日のWTI原油先物価格は、米エネルギー省が発表した週間石油在庫統計で「原油在庫が増加し、引き続き5年間の季節平均を上回った」ことが明らかになり、3カ月半ぶりに1バレル=50ドルを下回った。翌23日も4カ月ぶりに同48ドル台に続落した。

 7月17日、米資源開発サービス大手のベーカーヒューズが「米国の稼働中のリグ数が7基減少した」と発表したにもかかわらず、原油価格は反転しなかった。シェールオイル企業が少々減産したとしても石油輸出国機構(OPEC)の増産傾向が止まらない。これに中国需要への不安が加わり、世界的な供給過剰状態は一向に改善しないとの認識が広がり、原油価格の下押し圧力が高まっているためである。

サウジが主導するOPECの「暴走」

 このような状況下でも、OPEC加盟国関係者は、「今月に入っての原油価格の下落は短期的なもので、世界経済の成長で価格上昇が見込めるため、市場シェア確保のために生産量を高水準で維持するという機構の方針に変更はない」と述べた(7月22日付ロイター)という。

 筆者はかねてからOPECの見通しに対し違和感を抱いていたが、7月18日にバーレーンのエネルギー戦略研究所が発表した報告書の内容は衝撃的だった。その内容をかいつまんで言えば、「サウジアラビアは制裁解除後のイランの石油生産拡大を妨害するため、過剰な量の原油を世界市場に供給することで原油価格下落の要因を無理やり作り出そうとしている」というものである。この推測が正しいとすれば、サウジアラビア関係者がしきりに「来年の原油需要は拡大する」と強調している理由が分かるような気がする。

 しかしサウジアラビアと並ぶ原油生産大国であるロシアにとって、「最近の原油値下がりは、リセッションが来年も続き、ここ20年で最長となることを意味する」(7月22日付ブルームバーグ)

 ロシアでは今年に入り6カ月連続で新車販売が前年に比べて大幅減になっている。7月23日付CNNによれば「3月末の貧困層が前年比で300万人増加した」という。来年9月に議会選挙を控える現政権への圧力は高まっており、ロシアのノバク・エネルギー相は7月30日にOPECのバドリ事務局長と石油市場とイランの状況について協議することを明らかにした。一方で、ロシアは中国の原油市場でサウジアラビアとシェア争いを演じるなど利害が対立しており、OPECの「暴走」を止めるのは難しいだろう。

中国経済に立ち込める暗雲

 世界の原油需要拡大の頼みの綱だった中国経済には、ますます暗雲が立ちこめている。

 中国の自動車市場の不振は誰が見ても明らかだ。フォルクスワーゲンの今年上半期の中国市場での出荷台数は2005年以来初の減少となった(前年比3.9%減の174万台)。7月23日付ブルームバークによれば、世界の自動車メーカー各社は中国での工場の稼働率を抑制する「転換点」を今年中に迎えるという。

 中国政府も7月22日、「製造業は深刻な供給過剰の状態が続いており、潜在需要の強い海外へ生産施設を移転することでしか解決しない」との見方を示した。

 中国が官民挙げて株式市場下支え策に投じた金額は、リーマン・ショック後の経済対策(4兆元)を超える5兆元相当に上った(7月23日付ロイター)。中国メデイアによれば、「6月中旬から始まった株価暴落の影響により、中国の家計資産に占める株式資産が6.8兆元(約136兆円)目減りした」という。株式市場に連動して不動産市場が一段と悪化すれば、「住宅ローンによる大規模な焦げつきが家計に発生して、金融システムが混乱する恐れがある」(7月20日付ドイツ連邦銀行月報)

「中国の株式市場のリスクよりも、中国企業が抱える債務の方が深刻だ」とする声も高まっている。

 格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は7月16日に発表した報告書で「中国政府主導の独自の資本主義のもとで、企業の債務負担は政府の8倍に達する」ことを指摘した。また、7月16日付ロイターは「中国の企業債務は2013年のGDP比120%から2014年は同160%の16.1兆ドルに拡大し、米国の2倍の規模に達した」と報じた(米マッキンゼーは28兆ドルと試算している)。

 膨大な規模の借金を抱える中国企業にとって、さらなる悩みの種は資金の海外流出である。米JPモルガンは7月17日に発表した報告書の中で、「過去15カ月に中国から流出した資金は5200億ドル(2011年から中国に流入した資金の総額と同額)に達した」と分析。その理由は「投資家が中国の経済成長を悲観的に見ているため」としている。

シェール革命で駆け上がり、転落したチェサピーク

 以上のような状況を踏まえ、市場関係者の間で「1バレル=30ドルの水準まで下落する可能性がある」との声が囁かれている。そうなれば、低油価に抗してきたシェール企業も「万事休す」かもしれない。

「米チェサピーク、7~9月期以降の配当中止へ」──2015年7月21日付ウォール・ストリート・ジャーナルは米石油・ガス生産大手のチェサピーク・エネジー(以下「チェサピーク)が苦境に陥っている状況を報じた。

 チェサピークといえば、「シェール革命の風雲児」である。1990年にオーブリー・マクレンドン氏が従業員10人で立ち上げた会社は、現在エクソンモービルに次ぐ全米第2位のガス生産会社に成長した。

 その成長の原動力はシェール革命だった。シェールガス・オイルの生産を可能にした水平掘削や水圧破砕などの技術の将来性にいち早く注目したマクレンドン氏は、偉大なる「ランドマン(地権交渉人)」となり、地主を説得し、所有地での掘削権のリース契約を結ぶ交渉人を何千人も集めて生産性の高い米国のシェール埋蔵地のほぼすべてに多大な権益を確保した。こうしてマクレンドン氏は2009年米500社CEOの報酬ランキング1位(約112億円)に輝くなど、アメリカンドリームを達成した。日本でも各種メデイアがチェサピークを取り上げ、視察ツアーが相次いだ。

 しかし、チェサピークの転落は早かった。シェール層からの天然ガスや石油の生産が可能と分かるとシェールブームが起こり、多くの企業が参入した。そのため、米国内の天然ガスがあふれ、天然ガス価格が急落したからだ。

 2008年に百万BTU当たり13ドル超の高値を記録した米国のガス価格は、2009年には3ドル台に落ち込み、エクソンモービルなどガス生産会社は軒並み赤字に転落。チェサピークは経営危機に見舞われた。

 危機を乗り切るためにチェサピークは、他のガス生産会社と同様にシェールガスの生産から徐々に手を引き、価格が高い原油などの生産にシフトする。同時に、豊富に有するシェールガス関連権益を売却する動きに出た。2010年10月に中国海洋石油(CNOOC)が約11億ドル、2011年2月に世界最大の鉱山会社である英豪BHPビリトンが約48億ドルでチェサピークの権益を取得するなど資産売却は順調に進んだが、チェサピークの経営は想定通りには改善しなかった。2012年に入ると米国の天然ガス価格が100万BTU当たり2ドル前後まで下落し、業界全体で年間約100億ドルの赤字という事態になってしまったからである。

 マクレンドン氏は2013年1月にCEOを退任することとなったが、まさに「シェール革命の浮沈を体現する人物」だったと言えよう。

 体制を一新したチェサピークは経営立て直しのために、さらなる資産売却とシェールオイル・ガスの増産に努めてきた。しかし2014年後半以降の原油価格急落で2015年第1四半期は大幅な赤字に転落した。2014年9月時点で25ドル台だった株価は、2015年7月には9ドル台と低迷(前述の「配当停止」報道後、株価は8ドル台に下落した)、さらなる資産売却も困難になりつつある。

資金難に陥るシェール企業が続出

 7月に入り、海外勢で最もシェール事業への投資額が多い多国籍企業、BHPビリトンがシェール事業で多額の損失(28億ドル)を計上し、米シェール事業への設備投資額を2016年6月期は前年度より55%減らすことを明らかにした。大手石油・ガス企業では、英BPが21億ドルの評価損を計上。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルも多額を投じた開発が失敗に終わるなどシェールブームはすっかり冷え込んでいる。

 2013年1月31日付フィナンシャル・タイムズは、「チェサピークは前払いで現金を受け取る見返りに将来生産する石油やガスを現物で支払う『ボリュームメトリック・プロダクション・ペイメント(VPP)』などの不透明な金融契約を駆使して債務を積み上げている」と報じている。原油価格の下落で、チェサピークの生産物の価値はますます下がり、借金の返済のために赤字覚悟の生産の増加に迫られることになる。

 リーマン・ショック後からシェール革命の最大の支援者だったウォール街は、銀行監督当局がシェール企業への融資に関連するリスクについて警告を発しているため、今後融資返済に向け圧力を強めつつある(7月21日付ブルームバーグ)。銀行の与信枠の再検証は通常4月と10月に実施されるが、生産物の価値に基づく与信枠が10月までに縮小されれば、チェサピークは資金繰りに窮する事態に追い込まれるだろう。

 7月22日付ブルームバーグは、「資金難に陥る企業が増える中で、投資家たちは次に支払いが難しくなる企業がどこか探し、もっと大きな賭けを行いたいため、レバレッジを活用する複雑なクレジットデリバテイブの一種である『インデックストランシュ』と呼ばれる金融商品の取引が急拡大している」と報じ、この商品を「金融危機前に人気を集めた仕組み商品と瓜二つだ」と評している。

 1兆ドル規模のサブプライム関連CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場が、世界を金融危機に引きずり込んだことは記憶に新しい。現在100億ドル超のインデックストランシュ市場が、今後、ウォーレン・バフェットが言う「金融版大量破壊兵器」にならないという保証はない。

サウジとロシアが核で協力?

 最後にサウジアラビアとロシアの気になる動きを紹介したい。

 サウジアラビア政府系投資ファンドが、ロシアに100億ドルの投資を行うことになった。主導したのは、6月中旬のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムに参加したサウジアラビアの副皇太子、ムハンマド国防相である。

 そして、その見返りの一環として「同フォーラムでロシアによる原子力発電所建設を視野に入れた原子力協定が締結された」(7月23日付産経新聞)という。

 7月22日付ロイターは、イラン核合意を受け「中東域内でイランとの権力争いを続けるサウジアラビアが、自国の原子力計画を加速し、将来的に核武装を可能にする核のインフラ構築に動く可能性がある」と指摘している。

 イラン核開発疑惑が10年越しに解決した矢先に、今度はサウジアラビアによる核開発疑惑が浮上してしまうのだろうか。原油価格下落圧力を食い止めるための最後の手段として、中東地域で危機を演出するというシナリオだけはやめてほしいものである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44381?utm_source=editor&utm_medium=self&utm_campaign=link&utm_content=recommend

◆プーチンがイラン核合意を支持した思惑
Why Does Putin Support the Iran Deal?

デメリットもある対イラン経済制裁解除で譲歩したのは地政学的な理由から

2015年8月5日 ジョシュア・キーティング Newsweek japan

オバマが感謝の電話をするほど素直?だったプーチン 
Alexei Druzhinin-REUTERS

 イランの核問題をめぐる協議が終了した翌日、オバマ米大統領はロシアのプーチン大統領に電話をかけた。合意成立に協力したプーチンに感謝するためだ。近頃の欧米とロシアのとげとげしいムードからすればロシアの協力姿勢は、イランが制裁解除の条件をすんなり受け入れたこと以上に、驚くべき展開だった。

 ロシアを含む国連安全保障理事会は先週、イランとアメリカなど6カ国が取り決めた核合意を正式に承認した。これにより安保理決議による制裁は、イランの合意内容履行が確認され次第、解除されることになる。

 核合意にはいわゆる「スナップバック」条項が含まれている。イランが合意内容に違反したら、安保理の決議を経ずに自動的に制裁が復活するというものだ。

 この異例の条項が設けられたのは、安保理の常任理事国にイラン寄りのロシアと中国が含まれているからだ。再びイランに制裁を科す必要が生じたときに、ロシアか中国が拒否権を行使すれば困った事態になる。 

 プーチンにとって安保理における拒否権は大国の証しだ。みすみすそれを放棄するような条項をなぜ認めたのだろう。

 中国が核協議で欧米と歩調を合わせた理由は分かる。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イランの制裁が解除されれば大きな経済的メリットがある。だが、ロシアの場合はそれほど単純ではない。制裁解除でイランがエネルギー輸出を再開すれば、ロシア経済の息の根を止めてきた原油と天然ガス価格の下落は一段と進む。

 おそらくプーチンは自国の経済的な利益よりも地政学的なメリットを重視しているのだろう。制裁を解除すれば、イランは再び中東でアメリカとサウジアラビアに対抗する地域大国になる──米議会のタカ派はそう主張して核合意に反対してきた。プーチンも彼らと同じ意見のようだ。ただしプーチンにとっては、イランの影響力拡大は脅威ではなく、好都合な事態なのだ。
© 2015, Slate [2015年8月 4日号掲載]

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/08/post-3818_1.php

◆イラン核合意を批判 イスラエルはイランを攻撃するのか?

2015年07月31日 BLOGOS

 イランの核開発に関して同国と6大国の間で14日に合意が成立しました。6大国とは国連安保理の5常任理事国とドイツです。イランは、その核開発に関して軍事転用の疑いを払しょくするような厳しい査察などの条件を受け入れました。代わりに大国側はイランに科していた経済制裁を撤廃します。この合意によって、この問題をめぐる軍事衝突の可能性が劇的に低下しました。少なくとも合意の当事国であるアメリカがイランを攻撃するシナリオは、当分の間は消えたといえます。

イランが原子力開発能力を持つことに反対

 国際社会の大半は合意を歓迎しています。その例外はイスラエルです。イスラエルは、イランが平和利用にしろ原子力開発の能力を保持すること自体に反対しています。イランは信用できない。いつの日か核兵器を製造するようになるだろうと懸念しているわけです。

 しかし核不拡散条約では、締結国は核の平和的な利用を認められています。イランに、核開発の権利そのものを否定することには無理があります。ちなみにイスラエルは、核不拡散条約に加盟していません。また核兵器の保有国です。

 合意の成立を見た現在、交渉に反対してきたイスラエルが、国際的に孤立して見えます。イスラエルのネタニヤフ政権は、アメリカ議会による合意の承認阻止に力を傾けています。議会が承認を拒否すれば、アメリカの国内法に基づく対イラン制裁は解除されなくなります。

アメリカ議会の動向に注目が集まっています。そのアメリカ議会の上下両院で多数を占める共和党議員の多くが、合意に反対の立場を表明しています。しかし、アメリカの政治制度では大統領の提案を議会が否決した場合に、大統領は拒否権を行使できます。憲法が大統領に議会の反対を乗り越える力を与えているのです。そして大統領は、拒否権の行使を明言しています。

 しかし、それで話が終わるわけではありません。再び今度は3分の2以上の票で議会が提案を否決すれば、その提案は廃案になります。つまり大統領の拒否権を乗り越える力を3分の2以上の票を集めた場合に限り議会に与えているのです。

 とはいえ、いかに共和党優位の議会とはいえ、同党だけでは3分の2の議席を押さえていないので、大統領の拒否権を覆すのは難しいと見られています。

単独でイラン核施設を破壊する能力はない?

 この予想通りに、議会が大統領の提案を否決できなかった場合にはどうなるでしょうか。核合意が実施され、アメリカもイランに対する制裁を順次解除して行くでしょう。またワシントンでは伝説的にさえなっているほどに強力な親イスラエル・ロビーの神話が崩れる結果となるでしょう。

 何とか議会の3分の2の票を集めて、この合意を阻止する秘策はないのでしょうか。もちろん、イスラエルが単独でイランを爆撃して戦争を始めれば、親イスラエルの感情が高まり議会の大多数が合意を否決する という可能性があります。しかし現実的にはイスラエルが単独でイランと開戦する可能性は低いと見られてきましたし、この合意の成立によってさらに低くなったでしょう。イスラエルには単独でイランの地下深く建設された核関連施設を破壊する能力はないと見られています。

 イランは、攻撃を受ければホルムズ海峡を封鎖すると明言していますが、攻撃の可能性が低いのですから、封鎖の可能性もゼロに近いでしょう。

 もし仮にイスラエルに単独でイランの核関連施設を破壊する能力があれば、とっくの昔に破壊を実行していたでしょう。イスラエルは、単独では軍事能力が不十分であるからこそ、アメリカとイランを対立させアメリカの軍事力でイランの核関連施設を破壊しようとしてきたわけです。今回の合意は、この路線の破綻を意味しているのです。

イスラエルに残された“悪魔のシナリオ”

 それではイスラエルに、もう打つ手はないのでしょうか。専門家の間で懸念されている“悪魔のシナリオ”が残っています。それはイスラエルによるヒズボラに対する攻撃です。ヒズボラはレバノンのシーア派の組織です。イランの支援を受けて成長してきたヒズボラの軍事部門は強力です。かつてレバノン南部を占領していたイスラエル軍を撤退に追い込んだほどです。

 このヒズボラは、現在は隣国シリアに軍事介入してアサド政権を支えています。ある意味、シリア戦線で手一杯の状況です。ですから現在は、この組織はイスラエルに対する脅威とはなっていません。しかし、何らかの理由を付けてイスラエルが、このヒズボラを攻撃すれば、ミサイルによる反撃が予想されます。

 もしアメリカ議会で核合意が審議されている際に、イスラエルにヒズボラのミサイルの雨が降るような状況になれば、議会でイスラエルに対する同情心が高まり、合意阻止に必要な3分の2の票が集められるのではないか? との計算に基づいてイスラエルが戦争を始めるのではないか。というのは、危機感が高まれば、オバマ政権のイラン政策を支持してきた民主党の議員の一部までもが、合意への反対に回る可能性が高まるからです。専門家の間でささやかれている悪魔のシナリオです。

 議会は9月の中旬まで、イラン核合意について審議する予定です。それまではイスラエルの動向から目が離せません。

(放送大学教授・高橋和夫)
■高橋和夫(たかはし かずお) 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『イスラム国の野望』(幻冬舎)など多数

http://blogos.com/article/125674/

◆アングル:イラン合意で警戒強めるサウジ、核武装も選択肢か

2015年 07月 22日 ロイター

U.S. Secretary of State John Kerry (L) meets with Saudi King Salman at the Royal Court, Thursday, May 7, 2015, in Riyadh, Saudi Arabia.
REUTERS/ANDREW HARNIK/POOL

[リヤド 21日 ロイター] - イラン核問題をめぐる同国と欧米など6カ国の合意を受け、中東域内でイランと権力争いを続けるサウジアラビアが、自国の原子力計画を加速し、将来的に核武装を可能にする核のインフラ構築に動く可能性が指摘されている。

イランが合意によって国際社会の圧力や制裁から解放され、代理戦争での同盟国支援を強めると懸念しているためだ。

実際にこのところ、サウジは自国の核プログラムを進展させている。ただ専門家らは、サウジが秘密裏に原子爆弾を開発することの現実性や、またそのような計画が明るみになった場合、政治的圧力に耐えられるかどうかは不透明だとの見方を示している。

「イランが爆弾を手に入れれば、サウジも検討すると思う」と同国の王子が所有するニュースチャンネルの責任者、ジャマル・カショギ氏は述べ、「インドとパキスタンの状況と似ている。パキスタンは何年もの間(爆弾は)不要だと表明してきたが、インドが手に入れるとパキスタンもそうした」と指摘した。

サウジ王家に近い一部の関係筋は、イランが核武装に成功した場合には、国際社会からの排除や対米関係の悪化につながるとしても、サウジは核武装に踏み切るとの見方を示した。

<対米関係への影響は必至>

サウジの原子力担当機関「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(KACARE)」は2012年、17ギガワット規模の原子力設備を設置すべきと勧告。ただ設置を進める計画はまだ策定されていない。

同国は原子炉建設が可能な複数国との間で原子力協力で合意しているが、最近フランス、ロシア、韓国との間で交わした合意には、原子力発電所や燃料サイクルの実現可能性調査も含まれている。

原子爆弾の開発はウラン濃縮プロセスを通じて行われる可能性が高いことから、サウジが爆弾を開発するには技術的な障害が出てくる。

IHJジェーンズのアナリスト、カール・デューイ氏は「兵器製造に必要な核分裂性物質を入手するのは極めて困難だ」と指摘。他国に発見される可能性は非常に高い、と述べた。

現時点では、米国はサウジの政治・安全保障インフラに密接に関与していることから、米政府に知られずにサウジが核武装プロジェクトを計画できるとは考えにくい。

米政府に隠れて核兵器を製造することは、サウジアラビアにとって非常に重要な戦略的安保関係を大きく損ねることになる。

<原油価格への影響力>

サウジは世界最大の原油輸出国であるだけでなく、大幅な過剰生産能力を維持し、原油価格に対して他の産油国が対抗できないほどの影響力を持つ。世界のエネルギー市場でのサウジの特別な立場を考慮すると、同国の原油輸出に制裁を科すことは不可能だ。

しかし、サウジの非原油セクターは輸入に大きく依存しており、これには理論的には制裁の対象となりやすい食品や消費財も含まれている。

前出のカショギ氏は「サウジは圧力に耐える準備はできているだろう」とし、「イランやイスラエルが入手しているのなら、われわれもそうしなければならない」と述べた。またサウジが原油輸出によって圧力から保護されるとの見方を示した。

ただ同国にとって核武装は極めて大きな賭けとなる。核武装のリスクが、イランに核開発の優位性を与えることにより発生するとされるリスクを上回るかどうかは、疑いなくサウジ王家が見極めようとしている問題だ。

http://jp.reuters.com/article/2015/07/22/iran-nuclear-saudi-nuclear-idJPKCN0PW0XB20150722

◆米エジプトが外相会談 イラン核、過激派対策協議

2015.8.2 産経ニュース

 ケリー米国務長官は2日、エジプトの首都カイロで同国のシュクリ外相らと会談した。7月に最終合意に達したイラン核協議について説明するほか、過激派組織「イスラム国」対策など中東の安定化に向けた戦略対話を実施するとみられる。

 2013年のエジプト軍クーデター後、米国はエジプト の人権状況への懸念から同国への大型兵器供与を凍結していたが、「イスラム国」対策など中東の安定のため、今年3月に凍結解除を発表。7月下旬にF16戦闘機8機を引き渡すなど軍事支援を強化、関係緊密化に向けて動きだした。

 ケリー氏は、エジプト の後にカタールの首都ドーハも訪問予定。サウジアラビアなど湾岸協力会議(GCC)加盟国の外相らと会談し、イラン核協議の合意について理解を求める。(共同)

http://www.sankei.com/world/news/150802/wor1508020034-n1.html

◆イラン核合意が日本の安全保障に与えるインパクト

2015年07月16日 Newsweek japan

 いわゆる「集団的自衛権の行使は合憲」という解釈の上での、一連の「安保法制」を成立させようという日本の動きは、アメリカでは大きく報じられてはいません。何よりも14日にウィーンで発表された、「イランとの核協議合意」のニュースが大きな話題になっているからです。

 非常に簡単に言えば、今後15年間にわたって、イランは核兵器の製造につながる濃縮ウランの製造を制限されます。また、この点に疑念が生じた場合にはIAEA(国際原子力機関)による査察をイランは受け入れることになりました。その見返りとして、国際社会はイランに対する経済制裁を解除するというのが要点です。

 今回の合意は「EU+E3(英独仏)+3(アメリカ、中国、ロシア)」とイランによるもので、オバマ大統領はウィーンでの発表の直後の臨時会見を行い、「これはあくまでイランを信頼するということではなく、イランを監視する仕組みを作ったものである」として、早速反対派の疑念を牽制しています。

 その「合意反対派」であるアメリカの共和党とイスラエル、サウジなど湾岸産油国は、早速反論に出ています。ただ、その反論は「査察条件のゆるさ」など具体的な改善要求というよりも、「原理主義的な政権の下で制裁を解除するのであれば、流入したカネで核開発をするのは必至」だという主張がメインで、これでは「イランがイスラム国家という国のかたちを維持する以上は、永遠に経済制裁を続けるべき」と言っているに等しいわけです。

 そうした「絶対反対」という論の背後にあるのは、まずエネルギー産業などの利害を代表して原油価格を高めに誘導したいという動機があり、その次にパレスチナやヒズボラや、イエメンのフーシー派などを支援してきたイランとの敵対関係があるわけです。

 では、その反対にオバマ政権が、とりわけジョン・ケリー国務長官などがイランとの合意に漕ぎ着けた背景には何があるのでしょう? まず、安定的な経済成長のためにも原油価格の更なる一段安を実現したいということもありますが、それ以上に、イランとの関係を改善することが「現在のイラクのシーア派政権の安定」と「ISIL包囲網の完成」という中東政策の「要」とでも言うべき戦略性を持っているということがあります。

 また、EUが合意に熱心である理由としては、イスラム系の住民が増加を続け、ISILの影響力が浸透する中で、イランとの平和的な関係を構築することが、域内の安全に結びつくということがあると思います。

 中国の場合は、何と言っても原油価格の安定が経済成長を続ける上での重要なファクターということが指摘できます。一方でロシアの場合は、原油安になるのは困る立場ですが、イランへの影響力行使を継続するということ、そしてISIL包囲網の完成は支援しているアサド政権の延命にプラスだという計算があると思われます。

 このニュース、日本では安保法制のニュースに隠れがちですが、例えば安保法制の適用が考えられる具体的な問題として「ペルシャ湾での航行の自由確保」が日本にとって、エネルギー安全保障上の「存立危機」だと考えるのであれば、今回のイランとの核合意というのは「日本の存立に関わるような重大な危険が緩和される」という大問題であるはずです。

 例えば、自民党の中には、オバマ政権下の駐日アメリカ大使館が安倍首相の靖国神社参拝に「失望」を示したことについて「共和党政権のときはこんな揚げ足をとったことはなかった。民主党のオバマ政権だから言っている」と言うような「共和党こそ親日」という思い込みは今でもあるようです。ですが、今回の件において、共和党が「イランの国際社会への復帰」について「明確な抵抗勢力」として行動するのであれば、それは日本の国益、とりわけ円安下のエネルギー確保戦略に対する大きな脅威になりかねません。

 では、オバマ主導の「イランとの和解」は、100%日本の国益に叶うのかというと、それも分かりません。特に、任期に1年半を残したオバマ政権が、ISIL包囲網を完成させて、その際にPKO兵力として「集団的自衛権を合法化し、なおかつ武器の使用基準も緩和した」日本の自衛隊に大きな期待をかけてくるということも想定できます。

 その際に、立ち回りに失敗すると、一時期のNATOにおけるドイツ軍のように「歴史に傷を持つがゆえに、黙々と犠牲に耐えなくてはならない」ような「使われ方」をされる危険もある、そんな警戒感を持つことも必要であると思います。

 もう1つは、核拡散の問題です。今回の合意を受けて、天野之弥(ゆきや)事務局長が率いるIAEAの活動への期待が高まりますが、日本はそれを支えていくことが求められます。また、イランとの合意に続いて、そのイランとの関係も指摘される北朝鮮の核開発をどう停止させていくか、これは日本の安全保障に直結する問題に他なりません。

 集団的自衛権を合法化するということは、一国だけの平和主義に閉じこもることから、「軍事的なるもの」を前提に動いている国際社会に、より真剣にコミットすることに他なりません。であるならば、今回のイランとの合意に関しては、日本の安全保障という面からのディスカッションが政権の側からも、政権批判をする側からも真剣な盛り上がりを見せることを期待したいと思います。

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2015/07/ga.php

           目覚めよ日本!