ガックンン――という重々しい振動が、ペダルを踏む足下から全身に伝わってきた。
手前に目一杯引いた操縦桿が一気に軽くなり、ハトのようだった飛行機が、文字通りハヤブサに生まれ変わったかのように息を吹き返した。
しかし、飛行機を操縦している三浦少尉の顔は、険しさを増していた。ぴたりと後ろに張りついていたグラマンをかわし、機銃を放って動きを牽制しながら、互いの後ろを取り合った。飛行機が本来の動きを取り戻したとたん、急に任務を思い出したのか、グラマンはほとんど逃げ腰で、雌雄を決しないまま、あわてて翼を翻した。
背中を見せたグラマンは、機首を返すことなく、一目散に飛び去っていった。
みるみる小さくなっていくグラマンの後ろ姿を、少尉は飛行機の操縦席から、じっと目で追っていた。勝ったといううれしさはなかった。小さくなっていく敵機が、「くやしかったら追いかけてこい」と、舌を出してからかっているように見えた。
厳しい表情を浮かべたまま、少尉は250キログラムもある爆弾を操作するレバーに手を伸ばした。案の定、レバーは動いていた。少尉は、飛行機の翼を大きく翻し、後ろに戻って行った。
青々とした海面を操縦席から見下ろしながら、少尉は海の底深く沈んでしまった爆弾を探していた。何度となく同じ箇所を旋回し、目を懲らして見たが、いくら透きとおった海とはいえ、爆弾を見つける事はできなかった。
ソラは、後ろにひっくり返った体を起こすと、ホッとしたように言った。
「危なかった。もう少しで撃ち落とされてたかもしれないよ」
「でもお兄ちゃん、どうやったの?」と、ソラと同じく、後ろにひっくり返っていたウミが言った。
「わからないけど、レバーを動かしたとたん、とっても重たい物が落ちていったような感じがしたんだ」
二人は、青い鳥のふんわりと柔らかい羽毛に背中をあずけながら、しきりに外の様子をうかがっている少尉を見上げた。なにか大切な物を落としてしまったんだ、とすぐにわかった。しかし、規則的に息をしている青い鳥からは、これでよかったんだ、と安心した少尉の思いが伝わってくるようだった。
少尉は、とっくに爆弾を探すのをあきらめていた。旋回を続けながら、爆弾を落としてしまったせいで、任務が達成できなくなった事実を受け入れようとしていた。だが、先に飛んでいった本隊の連中に、なんと言って詫びればいいのか……。申し訳ない気持ちで一杯だった。特に隊長には、あわせる顔がなかった。
落とした爆弾は、海に落ちても爆発しなかった。飛行機に装備する際、少尉は係員の作業を最後まで見守っていたが、外から見た限り、不発になるとは夢にも思わなかった。あのまま本隊に追いついて、敵艦に攻撃を仕掛けていたとしても、ただ敵が撃つ機銃の的になるばかりで、戦功を上げる事など、できるはずがなかった。隊のみんなに顔向けできないとは思いつつ、どこかほっと安堵しているのも、また事実だった。
手前に目一杯引いた操縦桿が一気に軽くなり、ハトのようだった飛行機が、文字通りハヤブサに生まれ変わったかのように息を吹き返した。
しかし、飛行機を操縦している三浦少尉の顔は、険しさを増していた。ぴたりと後ろに張りついていたグラマンをかわし、機銃を放って動きを牽制しながら、互いの後ろを取り合った。飛行機が本来の動きを取り戻したとたん、急に任務を思い出したのか、グラマンはほとんど逃げ腰で、雌雄を決しないまま、あわてて翼を翻した。
背中を見せたグラマンは、機首を返すことなく、一目散に飛び去っていった。
みるみる小さくなっていくグラマンの後ろ姿を、少尉は飛行機の操縦席から、じっと目で追っていた。勝ったといううれしさはなかった。小さくなっていく敵機が、「くやしかったら追いかけてこい」と、舌を出してからかっているように見えた。
厳しい表情を浮かべたまま、少尉は250キログラムもある爆弾を操作するレバーに手を伸ばした。案の定、レバーは動いていた。少尉は、飛行機の翼を大きく翻し、後ろに戻って行った。
青々とした海面を操縦席から見下ろしながら、少尉は海の底深く沈んでしまった爆弾を探していた。何度となく同じ箇所を旋回し、目を懲らして見たが、いくら透きとおった海とはいえ、爆弾を見つける事はできなかった。
ソラは、後ろにひっくり返った体を起こすと、ホッとしたように言った。
「危なかった。もう少しで撃ち落とされてたかもしれないよ」
「でもお兄ちゃん、どうやったの?」と、ソラと同じく、後ろにひっくり返っていたウミが言った。
「わからないけど、レバーを動かしたとたん、とっても重たい物が落ちていったような感じがしたんだ」
二人は、青い鳥のふんわりと柔らかい羽毛に背中をあずけながら、しきりに外の様子をうかがっている少尉を見上げた。なにか大切な物を落としてしまったんだ、とすぐにわかった。しかし、規則的に息をしている青い鳥からは、これでよかったんだ、と安心した少尉の思いが伝わってくるようだった。
少尉は、とっくに爆弾を探すのをあきらめていた。旋回を続けながら、爆弾を落としてしまったせいで、任務が達成できなくなった事実を受け入れようとしていた。だが、先に飛んでいった本隊の連中に、なんと言って詫びればいいのか……。申し訳ない気持ちで一杯だった。特に隊長には、あわせる顔がなかった。
落とした爆弾は、海に落ちても爆発しなかった。飛行機に装備する際、少尉は係員の作業を最後まで見守っていたが、外から見た限り、不発になるとは夢にも思わなかった。あのまま本隊に追いついて、敵艦に攻撃を仕掛けていたとしても、ただ敵が撃つ機銃の的になるばかりで、戦功を上げる事など、できるはずがなかった。隊のみんなに顔向けできないとは思いつつ、どこかほっと安堵しているのも、また事実だった。