ブロロロロロォォォン――
と、重々しい排気音を轟かせた車が、ソラの乗った車の左側で停止した。
――ふと、ソラが横を向いた。いつの間に並んだのか、赤いスポーツカーが信号待ちをしていた。
前に向き直ったソラは、「えっ」と小さく声を上げると、もう一度横を向いた。髪の長い女の人が、左ハンドルの運転席にいるのが見えた。
サングラスをかけている女の人の横顔は、シェリルにそっくりだった。
「どこに行ってたの――」と、窓に顔を近づけたソラが、思わず女の人に向かって言った。
シェリルにそっくりな女の人は、黙ってソラの方を見ると、怪しむことなく、ニッコリと笑みを浮かべた。
急いで窓を開けたソラが、顔を外に突き出して大きな声で言った。
「ねぇ、シェリルさん、牧師さんはどうなったの――」
と、信号が青に変わった。シェリルにそっくりな女の人は、ソラを見ながら短い言葉を口にすると、黙ってハンドルを持ち直し、前を向いて車を発進させた。
シェリルにそっくりな女の人がなにを言っていたのか、残念ながら、ソラにはまるで聞き取れなかった。
「シェリルさん教えて、牧師さんはどうなったの――」
ソラは「もう一度言って」と、言いかけたが、
ブロロロロロォォォン――
重々しい排気音を轟かせた車は、交差点を左折して、どこかに走り去って行ってしまった。
「ねえ、誰と話をしているの」と、老婦人が不思議そうにソラの顔を見ていた。
青信号を待っていた車が、赤いスポーツカーに続いて、ゆっくりと走り出した。吹きつける風に目を細めたソラは、シェリルに似た女の人が、窓ガラスの向こうで、なんとなく「ごめんね」と、言っていたような気がしていた。
「シェリル、さん……」
と、ウミがぼんやりとした目を開けながら、体を起こして言った。
「――うん。そっくりな人だった」と、窓ガラスを閉めたソラが、ウミを見て言った。「いいや、きっと本人に違いないよ」
ソラは、交差点を右折した車の真っ直ぐ前を向き、遠くを見るように言った。
「あっ」と、体を起こして外を見たウミが、なにかに気がついて言った。
「どうしたの。まだ無理をして動いちゃだめよ」と、老婦人が心配そうに言った。
ソラが、ウミの見た方に顔を向けると、道路に沿って伸びる歩道があった。大勢の人達が行き交っている中、すっかりしわしわになったシャツを着た男の人が、ちらりと見えた。人の波に見え隠れしてよくわからなかったが、後ろ姿がどこかニンジンにそっくりだった。