くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(111)

2019-07-20 19:07:57 | 「機械仕掛けの青い鳥」
「お兄さんって、もしかして……」
 助手席から後ろに顔をのぞかせたソラが、老婦人の顔を見て思い出したように言った。
「――ウミ、ほら、あの時の」
「パイロットさんだ!」目を輝かせて笑ったウミが、後部座席に座ったまま、何度もうれしそうに飛び跳ねた。
「どうしたの? 私の顔に、なにかついてるのかしら」と、老婦人は怒ったような顔をして言った。
「うん。そっくりだよ――」と、ウミがいたずらっぽく言った。
「――どうしちゃったの、急に。そんなに私の顔が面白いのかしら」と、じっと顔を覗きこむウミを見ながら、老婦人が困ったように言った。
「おばあさんは、未来って信じますか?」と、ソラが聞いた。

 わずかなあいだ考えていた老婦人は、ため息をつくように言った。
「どうでしょうね」
「現在も未来も過去も、自由に旅することができるって、あり得ると思う?」と、ウミが目をぱっちり開きながら言った。
「そうね……」と、老婦人は考えるように言った。「いつかそんな時代が来れば、いいでしょうね」
 ――ふふふ、と老婦人が口元に手を当てて小さく笑った。「面白い子達ね」
 車が、ゆっくりとブレーキをかけて止まった。
「会長、青い鳥が、この家の敷地に入っていきました」
 席に座り直したソラが横を向くと、ねずみ色のブロック塀に囲まれた、古い一軒家があった。渋茶で染めたような木製の門が、積み重ねてきた時代の多さを感じさせた。
「ここって……」と、考えるように言ったウミが、ドアを開けて外に降りた。
 老婦人がウミに続き、杖を手にしながら外に出た。ソラも、後に続いた。
「あっ、やっぱり」と、塀の外に建っている電信柱を見上げて、ウミが言った。「私が、青い鳥を拾ったところだよ」
「えっ、どうしてここに来たんだろ――」と、ソラが驚いたように言った。
 老婦人はうなずくと、門にかけられた表札を見て、首をかしげた。
「知らない名前ね……」と、老婦人が悲しそうに言った。
 と、運転手が車の窓を開けて言った。
「会長、地図を確認しましたが、この辺りで間違いありません」
 門を前にした老婦人が、家を訪ねるかどうか決めかねていると、老婦人と並んだソラが横から手を伸ばし、ガラガラと引き戸を開けて中に入っていった。
「ちょっと、待って」と、老婦人が困ったように言った。「見ず知らずの人の家なのに、もう少し調べてから訪ねた方がよくないの――」
 しかしソラは、あっけらかんとして言った。
「誰かを、捜してるんでしょ?」
「……」と、老婦人は口をつぐんだまま、なにも答えなかった。ただ背筋を真っ直ぐに伸ばして、開いた門の前に緊張した面持ちで立っていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする