キューイ――
と、はじめて耳にする青い鳥の鋭い鳴き声が、空気を切るようにこだました。
二人は、頭上を飛び去っていく飛行機の機体を、目の当たりにしていた。緑色をした小さな機体は、やはり戦闘機に違いなかった。
バツン!――。
三浦少尉は、目もくらむばかりの光が、閉めたばかりの風防ガラスに映ったのを見た。
「雷か……」
そんなはずはなかった。ゼロ戦が順調に飛んでいる空には、消えそうなほど小さなちぎれ雲が、ぽつりぽつりと漂っているだけだった。
透きとおった海に浮かぶ黒い影が、ひとつ、またひとつと姿を現し始めた。ブルン、ブルルン……というエンジン音に合わせて、少尉の耳には、「一緒に帰ろう」と言ったウミの声が、繰り返し聞こえてきた。
遠くから見る限り、本隊の姿はどこにもなかった。どうしてなのか……ふと疑問がよぎったが、もはや確かめている時間はなかった。命令された任務を果たせないとわかったいま、できる限りの事をやり抜くしか、ほかになにも残されていなかった。
「ワァー!」
少尉は叫び声を上げると、ゆったりと波を蹴立てて近づいてくる艦隊に向かって、振り向くことなく、ゼロ戦を飛ばしていった。