これまで自分をかえりみず、一心に信じてきたものが、見た目だけは完璧な爆弾に姿を変え、海の底深く沈んでしまったような気がしていた。
息をするたび、ポッカリと、胸から空気が抜けるような脱力感を味わいながら、少尉はようやく予定していた航路に戻った。爆弾は落ちてしまったけれども、まだ機銃の弾は十分に残っていた。遠く離されてしまった本隊がどうなってしまったのか、知る術はまったくなかったが、このまま基地に引き返そうとは思わなかった。たとえ引き返したとしても、もう二度と、飛行機の操縦桿を握るつもりはなかった。基地を飛び立つ時から、これが最後の空だと、決めていた。
「どうやれば、引き返してくれるんだろう」と、立ち上がっていたソラは、腕を組みながら難しい顔をした。
「青い鳥も、だんだん元気がなくなっているみたい」と、ウミが、青い鳥の頭をそっとなでながら言った。
「どうして戻らないんだよ。ぼく達だけでも、外に出してくれよ」唇をとがらせたソラは、少尉に向かって、怒ったように言った。
“あの時もパイロットは、戻らなかった”
ソラはふと、抑揚のないロボットのような声が聞こえた気がした。振り返ると、目を半開きにした青い鳥が、じっとこちらを見ていた。
「お兄ちゃん――」と、ウミが驚いたような顔をして、ソラを見ていた。「いま、鳥の声が聞こえた」
こくり、とソラはうなずいた。
「悪いが、一緒に帰ってあげられそうもないんだ……」と、少尉が笑顔を浮かべながら、青い鳥を見下ろして言った。
そっと伸びてきた少尉の手が、青い鳥を下から優しくすくい上げた。
「おまえは、どこにでも飛んでいける翼を持っているんだよ」と、少尉は手の平の上に乗せた青い鳥を、愛おしそうに顔の前に持ち上げ、わずかに首をかしげながらおどけて見せた。「ここからは、一人でお帰り」
青い鳥の背中に乗り、隠れるように身を低くしていたソラとウミが、そろって顔を上げた。
少尉は、手に持った青い鳥をそっと膝の上に置くと、操縦席を覆っている風防ガラスに手を伸ばした。
「そんなのだめだよ」
と、ソラは青い鳥の背中から滑り降り、少尉の膝の上を走って上着をつかむと、振り落とされる危険も忘れ、ガラスに向かって伸びた少尉の腕に登っていった。
と、ウミは、青い鳥の首に両手を回しながら、何度も少尉に話しかけた。
「お願い、引き返して。作戦かどうか知らないけど、私達と一緒に帰ろうよ」
息をするたび、ポッカリと、胸から空気が抜けるような脱力感を味わいながら、少尉はようやく予定していた航路に戻った。爆弾は落ちてしまったけれども、まだ機銃の弾は十分に残っていた。遠く離されてしまった本隊がどうなってしまったのか、知る術はまったくなかったが、このまま基地に引き返そうとは思わなかった。たとえ引き返したとしても、もう二度と、飛行機の操縦桿を握るつもりはなかった。基地を飛び立つ時から、これが最後の空だと、決めていた。
「どうやれば、引き返してくれるんだろう」と、立ち上がっていたソラは、腕を組みながら難しい顔をした。
「青い鳥も、だんだん元気がなくなっているみたい」と、ウミが、青い鳥の頭をそっとなでながら言った。
「どうして戻らないんだよ。ぼく達だけでも、外に出してくれよ」唇をとがらせたソラは、少尉に向かって、怒ったように言った。
“あの時もパイロットは、戻らなかった”
ソラはふと、抑揚のないロボットのような声が聞こえた気がした。振り返ると、目を半開きにした青い鳥が、じっとこちらを見ていた。
「お兄ちゃん――」と、ウミが驚いたような顔をして、ソラを見ていた。「いま、鳥の声が聞こえた」
こくり、とソラはうなずいた。
「悪いが、一緒に帰ってあげられそうもないんだ……」と、少尉が笑顔を浮かべながら、青い鳥を見下ろして言った。
そっと伸びてきた少尉の手が、青い鳥を下から優しくすくい上げた。
「おまえは、どこにでも飛んでいける翼を持っているんだよ」と、少尉は手の平の上に乗せた青い鳥を、愛おしそうに顔の前に持ち上げ、わずかに首をかしげながらおどけて見せた。「ここからは、一人でお帰り」
青い鳥の背中に乗り、隠れるように身を低くしていたソラとウミが、そろって顔を上げた。
少尉は、手に持った青い鳥をそっと膝の上に置くと、操縦席を覆っている風防ガラスに手を伸ばした。
「そんなのだめだよ」
と、ソラは青い鳥の背中から滑り降り、少尉の膝の上を走って上着をつかむと、振り落とされる危険も忘れ、ガラスに向かって伸びた少尉の腕に登っていった。
と、ウミは、青い鳥の首に両手を回しながら、何度も少尉に話しかけた。
「お願い、引き返して。作戦かどうか知らないけど、私達と一緒に帰ろうよ」