じっと立ち止まった老婦人は、凍りついたように動かず、看板の上にいる青い鳥を、食い入るようにまじまじと見続けていた。
歩き出そうとしたウミが、青い鳥から目を離さないでいる老婦人を振り返ると、老婦人は意を決したように言った。
「追いかけましょう。あの鳥が向かうところに」
ウミは大きくうなずくと、老婦人の手を引っ張るように出入り口へ急いだ。
「――見失わないように行こう」ソラは急ぎ足で受付の外に出ると、ウミを追い越して自動ドアを抜けた。
車の中で待っていた運転手が、病院から出てくる三人を見つけ、急いで車を玄関の前に回してきた。
「見つけたわ、青い鳥――」と、老婦人が外に降りてきた運転手に言った。
運転手は、老婦人が車に置き忘れた杖を手渡しながら、驚いたように言った。
「お話を聞かせていただいた、あの、青い鳥ですか?」
「そのとおりよ」と、杖を受け取った老婦人が、ウミの後から後部座席に乗りこんで言った。「急いで出して。青い鳥が、私達をどこかに連れて行こうとしてるの」
「わかりました」
うれしそうに言った運転手は、小躍りするように席に着くと、心を落ち着かせるようにシートベルトを取り付け、しっかりとハンドルを握った。
助手席に座ったソラがドアを閉めると、車が静かに走り始めた。
車が走り出すと、青い鳥が、待っていたかのように飛び上がった。
「あっ、飛んだ」と、少し元気を取り戻したウミが、後部座席の窓から外を見て言った。
「ほら、向こうに行ったよ」ソラが指をさすと、運転手が
「よしっ――」
と言って大きくハンドルを切った。
青い鳥は、明らかにどこかへ連れて行こうとしていた。車が信号待ちをしても、建物の陰になって青い鳥を見失っても、車が後を追いかけてくるまで、ちゃんとどこかで待っていてくれた。
「おばあさんも、青い鳥を探していたの」と、ウミが老婦人の顔を見ながら言った。
「あなた達もでしょ」と、老人は言った。「私はね、亡くなった兄の思い出を尋ねてきたの」
「お兄、さん?」と、ウミは不思議そうに聞いた。
「――」と、老婦人は大きくうなずいた。「私の兄は、あなた達が生まれるずっと前、戦争に行っていたの。知ってるでしょ、戦争はもうとっくの前に終わったけれど、戦争中、大海原に飛行機ごと撃ち落とされたお兄さんは、人でなしとばかり思っていた敵の兵隊に命を救われて、怪我が治った後も、国に帰ってこなかったの。敵の兵隊に命を救われたのが、申し訳なかったって、よく話してくれたわ。当然、私もほかの兄弟達も、誰もが兄は亡くなったとばかり思っていたんだけれど、ある時、不意に連絡もなく、家に帰ってきたの」
歩き出そうとしたウミが、青い鳥から目を離さないでいる老婦人を振り返ると、老婦人は意を決したように言った。
「追いかけましょう。あの鳥が向かうところに」
ウミは大きくうなずくと、老婦人の手を引っ張るように出入り口へ急いだ。
「――見失わないように行こう」ソラは急ぎ足で受付の外に出ると、ウミを追い越して自動ドアを抜けた。
車の中で待っていた運転手が、病院から出てくる三人を見つけ、急いで車を玄関の前に回してきた。
「見つけたわ、青い鳥――」と、老婦人が外に降りてきた運転手に言った。
運転手は、老婦人が車に置き忘れた杖を手渡しながら、驚いたように言った。
「お話を聞かせていただいた、あの、青い鳥ですか?」
「そのとおりよ」と、杖を受け取った老婦人が、ウミの後から後部座席に乗りこんで言った。「急いで出して。青い鳥が、私達をどこかに連れて行こうとしてるの」
「わかりました」
うれしそうに言った運転手は、小躍りするように席に着くと、心を落ち着かせるようにシートベルトを取り付け、しっかりとハンドルを握った。
助手席に座ったソラがドアを閉めると、車が静かに走り始めた。
車が走り出すと、青い鳥が、待っていたかのように飛び上がった。
「あっ、飛んだ」と、少し元気を取り戻したウミが、後部座席の窓から外を見て言った。
「ほら、向こうに行ったよ」ソラが指をさすと、運転手が
「よしっ――」
と言って大きくハンドルを切った。
青い鳥は、明らかにどこかへ連れて行こうとしていた。車が信号待ちをしても、建物の陰になって青い鳥を見失っても、車が後を追いかけてくるまで、ちゃんとどこかで待っていてくれた。
「おばあさんも、青い鳥を探していたの」と、ウミが老婦人の顔を見ながら言った。
「あなた達もでしょ」と、老人は言った。「私はね、亡くなった兄の思い出を尋ねてきたの」
「お兄、さん?」と、ウミは不思議そうに聞いた。
「――」と、老婦人は大きくうなずいた。「私の兄は、あなた達が生まれるずっと前、戦争に行っていたの。知ってるでしょ、戦争はもうとっくの前に終わったけれど、戦争中、大海原に飛行機ごと撃ち落とされたお兄さんは、人でなしとばかり思っていた敵の兵隊に命を救われて、怪我が治った後も、国に帰ってこなかったの。敵の兵隊に命を救われたのが、申し訳なかったって、よく話してくれたわ。当然、私もほかの兄弟達も、誰もが兄は亡くなったとばかり思っていたんだけれど、ある時、不意に連絡もなく、家に帰ってきたの」