――――……。
ツーンと、耳鳴りのするような音が、だんだんと遠ざかっていった。
ギュッと固く目をつぶっていたソラとウミは、強ばらせていた体を緩めながら、ゆっくりと目を開けていった。
「ここ……」と、ウミが言った。
「うん」と、ソラがうなずいた。「もとの場所に、戻ったみたい」
二人が立っていたのは、学校に続く通学路の途中だった。青い鳥を守ってニンジンを探していた二人が、追いかけてきた人達に追いつめられたところだった。香ってくる草花の匂いも、耳慣れた街の音も、奇妙に新鮮で、懐かしく感じられた。
「誰もいないね」
ソラが、ぐるりと周りを見回しながら言った。
「――あっ、青い鳥」と、ウミが驚いた声を上げて指をさした。
「どこ?」ソラが、ウミの指さした場所を目で探しながら言った。
と、「お兄ちゃん、早く――。また見失っちゃうよ」ウミが、ソラに顔を向けたまま、通りを横断するように走り始めた。
「危ない、ウミ! 止まれ!」
走っていくウミを見ながら、ソラが手を伸ばすようにして叫んだ。
きらきらと、光沢を放った一台の黒い車が、中小路から不意に現れた。学校へ行き来する時も、友達と遊んでいる時も、思い出せる限り、出入りする車を数えるほどしか見たことのない、狭い通りだった。
車は、銀色に光る鼻先を通りに突き出し、一時停止した。しかし、ソラの顔を不思議そうに見ていたウミが、前を向いた途端、もはや避けられないほど近くまで、目の前に車が迫っていた。
「あっ――」と、ソラは口を半開きにしたまま、力なく足を止めた。
車の手前で気がつき、あわてて避けようとしたウミだったが、勢いづいて斜めになった体を、車のボンネットにしたたかとぶつけてしまった。
ぶつかった衝撃で、ウミは頭を前後に振りつつ、その場によろよろと倒れ伏した。時間が止まってしまうんじゃないかと思うほど、ゆっくりと倒れていくウミの姿が、ソラの目にくっきりと焼きついて、離れなかった。
紺色のスーツを着た運転手が、「大丈夫か」と言いながら、運転席のドアを勢いよく開け放して、外に飛び出してきた。
はっと我に返ったソラは、「ウミ……」と名前を呼びながら、運転手に抱き起こされ、力なく気を失っているウミのそばに駆け寄っていった。
「きみ、しっかりするんだ。きみ――」
運転手は、立ち膝をついた腕にしっかりとウミを抱えつつ、何度も耳元で大きな声を出していた。
「ウミ、聞こえるか、ウミ!」走ってきたソラが、オロオロしながらウミの名前を叫んだ。「早く、救急車。病院に行かなきゃ、ウミ!」