おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エレニの旅

2019-02-08 14:08:02 | 映画
「エレニの旅」 2004年 フランス/ギリシャ/イタリア


監督 テオ・アンゲロプロス
出演 アレクサンドラ・アイディニ ニコス・プルサディニス
   ヴァシリス・コロヴォス ヨルゴス・アルメニス
   エヴァ・コタマニドゥ ミハリス・ヤナトス
   トゥーラ・スタトプロウ

ストーリー
1919年頃、ロシア革命で赤軍が入城してオデッサから追われ、避難民となって帰国する一群のギリシャ人たち。
エレニはオデッサで両親を失った孤児だった。
約10年後、人々はニューオデッサ村を築き、エレニはスピロスの養女として育ったが、スピロスの息子アレクシスの子供を身篭った。
やがて生まれた双子のことは、とりわけスピロスには絶対の秘密だった。
アレクシスはエレニに、いつか2人で村を流れる河の始まりを見に行こうと約束する。
やがて成長したエレニを、妻ダナエを亡くしたスピロスが娶ろうとしたので、エレニは結婚式の場から逃げてアレクシスとテサロニキに去る。
救ってくれたヴァイオリン弾きのニコスは、アレクシスがアコーディオンの名手であることを知っていた。
アレクシスはアコーディオンの腕で、いつかアメリカに行けるかもしれないと夢見る。
まもなくエレニとアレクシスは別れていた子供たちと対面し、そして祭の最中、スピロスが現われるが、踊っていた仮面の女がエレニだとわかって心臓発作を起こし、その場で息絶える。
彼の死により、ニューオデッサの懐かしい家での一家4人の暮らしが始まろうとするが、大洪水が起きて、ニューオデッサは一夜で河と化してしまい、アレクシスたちは再びテサロニキへ。
ファシズムの嵐が吹き荒れる中、警察に追われていたニコスが死去。
そしてアレクシスが、バンドの一行とアメリカに発つ日が来たが、エレニはニコスを匿った罪で逮捕されてしまう。

寸評
カメラワークとしてズームやパン、カメラの移動が実にゆったりとしている。
おまけに所々で長回しもあるからこの映画の尺は170分と長くなっている。
ワンシーン、ワンシーンは丁寧に描かれているが、物語の時間経過は省略して、その間の出来事を観客に想像させているので間延びした感じは受けない。
観客を引き付けるものがあり、いつの間にか3時間近い時間が過ぎているという感じだ。

冒頭からそうなのだが、淡い色調の画面に黒い服を着た人がやたらと目に付き、黒い傘や黒い旗も登場するので黒はこの映画の基調色となっているように思う。
黒は絶望の象徴色だ。
「エレニの旅」が描いているのは救いようのない悲劇である。
この作品においては、これでもかと言わんばかりの失望が描かれ続ける。
したがって対照的に希望が全く排除されている。
エレニが味わう絶望、失望が美しい映像の中で描かれるという不似合いな画面が観客を圧倒する。
アレクシスの父親が死んだときに現れる木につるされた数多くの羊。
無数の白いシーツが干された海岸の映像。
水没した村から逃れてくる人々が乗っている船が配置されているバランス。
素晴らしすぎる映像が、気が重くなってくる内容から逃げようとする僕をつなぎとめる。

水没した村のセットも素晴らしい。
CGではない本物のリアルさと雰囲気がにじみ出ていたが、どのようにしてこのセットを作り上げたのかと、見ていて僕の興味はそちらに向かった。
金がかかっていると思う。

アレクシスはエレニと河の始まりを見に行くことを約束している。
米軍に身を投じ沖縄戦で死を目前に控えたアレクシスはエレニへの手紙にも「昨夜、夢で君と二人で河の始まりを探した・・・」としたためている。
草の葉に貯まった雫が落ち、やがてその一滴が河となって流れていくことも書かれている。
小さな出来事が歴史という大きな流れを作るかのようでもある始まりについて語っているにもかかわらず、実際はとてつもない喪失感である。
エレニはこの手紙が死んだアレクシスからのものであることを知っているのだ。
手紙が読み上げられた後にエレニの失望がさらに強調される。
二人の子供たちの死を目の当たりにするのだ。
「もう誰もいない。思う相手がいない。夜も一人、昼も一人。愛する相手が誰も…。あなたは彼…。彼はおまえ…。おまえはあなた…。あなたはあなた…」と子供の一人ヨルゴスにすがって泣き叫ぶ。
うわっー! ここで終わるのか!!
気が重くなって息苦しいのは、息を止めて見ている時間が長かったせいかもしれない。