ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラビット・ホール

2011-11-02 23:26:36 | ら行

この映画、あちこちで「いいよー」と
口伝してたんですが、

必ず「え?『ラビット・ホラー』?」って
間違われたんだよなー(苦笑)。

違うよっ。

「ラビット・ホール」80点★★★★


平穏な日々を送っていた
主婦ベッカ(ニコール・キッドマン)と
夫(アーロン・エッカート)。

だが、彼らに悲劇がふりかかる。

一人息子のダニーが
4歳にして亡くなってしまったのだ。

夫はダニーのビデオを何度も見返し、
一人で涙しているが、

ベッカはダニーの写真すら
見ることができず、

世の中すべてが空虚になり、
妹の妊娠すら素直に喜べない――。

二人は
圧倒的な喪失から
先へ進むことができるのか?


ナタリー・ポートマンの
「水曜日のエミリア」も似た題材で、
やはり悲しみから
周囲にトゲトゲしてしまう女性を描いていたのを
思い出します。

最近、こういった題材が
本当に多い。

「人は耐えがたい喪失を、乗り越えることができるのか?」

9.11の後遺症でしょうね。


で、本作はどうだったかというと
繊細で、本当に素晴らしかった。

っていうか
もう92分、気持ちいいほど
涙がボロボロ止まらなかったです。

喪失の経験のある人には
ドンピシャです、マジで。


きっと誰もが意外に感じると思うんですが、
この題材にしては
ものすごく色調も柔らかくて、
穏やかでやさしいんですよ。


哀しみは慟哭ではなく、
ひっそりと控えめに、日常に寄り添っている。

それこそが、
喪失の実態であり、苦しみなんですよね。

そして誰もが
どんなに時間がかかろうと、
どんな手段をとっても、
「そこから進まなければならない」ことを知っている。

だから、残酷なんだ、喪失は。


この映画はそこを
すごくよくわかってます。

そして
謙虚に手を取ってもらえるような
やさしい温もりを感じました。


ニコール・キッドマンが
息子がいなくなった瞬間から、
彼が「いる」世界と「いない」世界の
パラレル・ワールドが存在する気がする……、
と語るんですが、

自分もその心境に陥ったことがあるんで、
「え?ワシの話、聞いてたの?」と、マジに驚いた。

ホントに喪失体験は
皆同じような気持ちになるんだなあ。


監督は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」「ショートバス」の
ジョン・キャメロン・ミッチェル。

番長、どうやらこの人と
やたら波長が合うみたいで
全部好き。

しかし
全然合わない人もいるらしいんですよね(苦笑)。

なにより、この映画は
観る人の“経験”を選ぶかもしれません。


だから
喪失を経験した人に、心から薦めたい。


痛みはなくならないけど、
それとともに生きることが
いつか、できるようになるんだ、と

観た人が、感じられることを願います。


★11/5からTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開。

「ラビット・ホール」公式サイト
コメント
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