ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

聖なる鹿殺し

2018-03-01 22:44:45 | さ行

「ロブスター」の鬼才監督の新作。
すさまじい強度!


「聖なる鹿殺し」76点★★★★


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心臓外科医スティーヴン(コリン・ファレル)は
リッチな家で
美しい妻(ニコール・キッドマン)と、二人の子どもに囲まれて
幸せに暮らしていた。

だが、スティーヴンにはもう一人
気にかけている
少年マーティン(バリー・コーガン)がいた。

しかし、スティーヴンが少年を家に招待し、
家族に紹介したそのときから
一家に奇妙なことが起こり始める。

幼い息子が、ティーンエイジャーの娘が
突然歩けなくなってしまったのだ。

一体、何が起こっているのか――?


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前作「ロブスター」で
「45日以内に結婚できなければ、動物に変えられてしまう」という
奇想天外なのに鋭く現代を突く作品で話題になった
ギリシャ出身、ヨルゴス・ランティモス監督の新作です。


これまた数段、パワーアップ!
すごい映画でした。

第70回カンヌ国際映画祭でも脚本賞を受賞してます。



「いったい、何が起こるのか?」――

冒頭からずーっと
不穏と不協和音のアンサンブルが続くなかで
ふと
我々は気づくのだ。
またしても監督の「ルール」にハマっていることを!

予備知識ナシでご覧になりたい方は
ここでストップ!をおすすめします(笑)






この先を読んでみたい方のために、
先へ進みますと

主人公の心臓外科医スティーヴンは
ある手術で、患者を救えなかったんですね。

で、その死んでしまった患者の
息子がマーティン。

彼は罪悪感から
マーティンに親切にしているんですが

マーティンはスティーヴンに復讐するため
ある仕掛けをしてくる。

それは
父を殺したペナルティとして
スティーヴンも家族の誰かを失わなければならない、というもの。

で、手始めに子どもたちが
なぜか歩けなくなったりする。

呪詛のたぐいの描写もなく
それがまた、フツーに、淡々と起こる。

本来なら
「そんなこと、ありえない!」って思うんですけど
でも、それを観客の感覚や脾臓に染み込ませ、
納得させちゃうのが、この監督のすごみなんですよ。


「なぜ、そんなことが?」という疑問など挟ませず
「そういうものなのだ」とする、
この“神”な力が、パねえ(笑)

ランティモス監督は
つくづく、自分でルールを造りたい人なのだなと思う。
そしてそれを説得する力がある人なんだなと。
怖い(笑)

そして状況で、必然的に「誰が生き残るか」の
点数稼ぎ合戦になるという。
シュールさがたまりません(笑)

スティーヴンに降りかかる不条理は、
彼が犯した罪――
傲慢、尊大、無意識の差別や特権意識などのペナルティなのか?


現代社会をも、鋭く刺していて
ワシは非常におもしろく見ました。


★3/3(土)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほか全国で公開。

「聖なる鹿殺し」公式サイト
コメント
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