母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

青い花

2023年06月19日 | 


雨に咲く青い花
空と海を映す青い花
それは心の平安を呼ぶ色

切り取り花瓶に差すと
はなは少し寂しそうに
天を仰ぎ
そよぐ風 落ちる雨 語る仲間を
探して少し体よじり
運命を知り黙って咲いている

切り取った花の声が聞こえ少し悲しい人間は
青い花を傍らに
みどりの茶をすするだけ
青い花の優しさを 感じながら

青い実

2023年06月03日 | Weblog


可愛い小粒の実
山椒の実るころ
ふるさとは青に埋もれはじめ
ヨシキリが梅の木に子育てを始める季節

青い実
大きなヒバの木の根元に
さやさやと山椒の葉は茂り
太陽の光がやわらかに差し込む

山麓に太陽の季節が来る
山椒の実に塩をまぶし透けるガラス瓶に入れ
みどりの色を楽しみ
想い出す 青葉若葉の里

五月の海・灯台

2023年05月12日 | Weblog
灯台はいつか老いて
五月の海を眺めながらうとうと昼寝の毎日
行き交う船は増えても
灯台は働くことを終え丘の上で
のんびり立っていました

白いコスチュームの若い
王子の姿のまなので
遠くから人びとが訪れうっとり眺め
写真に撮って楽しんだりするので灯台は
まんざらでもなく目を細め
王子様のように襟を正し
ポーズしてふっと微笑み
やがて寝たふりなどするのです

初夏の風そよぎ
空の青に海の青
明るく光る若葉の高台に
灯台は昔を忘れ今を楽しみ幸せコスチュームに包まれ
余生を楽しんでいるのでした

花—千両役者

2023年04月18日 | 花(春)

桜が散れば牡丹の庭
古い町の寺の庭で
待っていましたと開く大きな赤い花は
回り舞台の華やかな人気役者
この季節の主人公

多くの画人の心を乱し
姿を佳人になぞらえ絵に残され
痛快なほど快活に謳い舞うつややかなその花
この世の春を謳歌して
香りを振りまく
かぐわしい大輪の牡丹

天平の寺

2023年03月30日 | 

弥生の空に薄紅の花の木
天平の寺跡は春の陽にあふれる
短い春をめでて人はさくらに
ほのかに寄せる願い
幸せの時間

天平の空千年を超えて
青く広く風はそよぎ
今はない伽藍の芝に
今を生きる春を楽しむ

楡は手を広げ人と共に憩う
静かなる
武蔵の国分寺

菜の花は黄色

2023年03月08日 | 花(春)
     菜の花は黄色
     菜の花が呼ぶ春
     菜の花はふくふくと香る
     菜の花を見るとこころが躍る
     歳かさねても明るい黄色はこころに幸せを運び
     青春が蘇る

     柔らかな時代無垢のこころを
     誰もがまだ持っている
     菜の花が呼び覚ます
     幾山河 光る春
     菜の花は黄色
     風に載る菜の花の
     香り 甘き


ねこの日石ねこ

2023年02月23日 | 
ねこの日石ねこ
石ねこのねこの日

顔寄せひそひそ語りあう
座蒲団に載った石ねこ

陽の当たる縁側で石ねことすごせば
浅い春の陽が傾く

猫はいつも何処からきて何故遠くに行くの
猫は単独を好み騒音を嫌い
老いた人の優しさと静けさを好み
幼子らをやさしさで慈しみ
暖かい体で寂しい人間をなぐさめる

ねこの日を石ねこと過ごすと
旅に出た
猫たちの寝息すうすう聞こえる如月二月


冬の陽に猫は人とまどろむ

2023年01月28日 | 
冬の陽にまどろむねこ
ねこも怒り
ねこも喜び
ねこも驚き
ねこも悲しみ
ねこも怖がり
哺乳類のからだを持つ

じっと眼をみつめ
はなし声を判定し
次にそなえて賢く生きる
綺麗な肢体のなかま

生・老・病・死の運命に乗り
やがてはひともねこも
全てを受容れいつかは去りゆく
脚が二本でも四本でも
息づかいを楽しみ生きてきた愛しい時間を
想う冬の陽だまり

ことばが通じたなら一つだけ
聞いてみたいねこも
未来や理想を想ったりするだろか
ねこよ


スタンド アローン 『坂の上の雲』より

2023年01月24日 | 
 
   スタンド アローン   
             小山 薫堂 作詞
             久石  譲 作曲

小さな光が 歩んだ道を照らす
希望のつぼみが 遠くを見つめていた
迷い悩むほど 人は強さをつかむから
夢を見る 凛として 旅立つ
一朶(いちだ)の雲をめざし

あなたと歩んだ あの日の道を探す
ひとりの祈りが 心をつないでゆく

空に手を広げ 降り注ぐ光集めて 
共に届けと放てば
夢かなう 果て無き
想いを明日の風に乗せて

私は信じる新たな時がめぐる
凛として 旅立つ
一朶の雲を めざし




           *東京オペラシティコンサートホール 森 麻季 2023.1.24

冬の詩 高村光太郎「冬が来た」

2022年12月31日 | 季節


    冬 が 来 た

        
                高村光太郎


きっぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
いちょうの木も箒になった
きりきりともみこむような冬が来た
人にいやがられる冬
草木に背かれ、虫類に逃げられる冬がきた
       
冬よ 
僕に来い、僕に来い
僕は冬の力、冬は僕の餌食だ
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のような冬が来た

食パン

2022年12月23日 | Weblog
2つめの停留所でバスを降りると
そのパン屋がある
グーチョキパン
という名の店ではないが
郊外の農家の隣のコロッケやの
その隣にある小さな建物
週に三日だけ開く店なのだ

1.5斤のずっしり重い食パンを抱いて
私の平凡な午後は嬉しく過ぎる
そばの柿の木に朱色の実が残り
野鳥がそれを見つめている

むかし給食のコッペパンを焼く店の前を通ると
既に焼くパンの香りが流れていた
思い出にあるあのパンの匂い

食べることは生きること
戦いのない平和な国の有難い
おいしい健康食パン


落葉松 高原の晩秋詩

2022年12月01日 | 

    落 葉 松

          北原 白秋

からまつの林を過ぎて 
からまつをしみじみと見き
からまつはさびしかりけり
たびゆくはさびしかりけり

 からまつの林を出でて
 からまつの林にいりぬ
 からまつの林にいりて
 また細く道は続けり

  からまつの林の奥も
  わが通る道はありけり
  霧雨のかかる道なり
  山風のかよう道なり

   からまつの林の道は
   われのみか ひともかよいぬ
   ほそほそと通う道なり  
   さびさびといそぐ道なり

    からまつの林を過ぎて
    ゆえしらず歩みひそめつ
    からまつはさびしかりけり
    からまつとささやきにけり
    
  からまつの林を出でて
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  からまつのまたそのうえに 
 
   からまつの林の雨は
   さびしけどいよよしずけし
   かんこ鳥鳴けるのみなる
   からまつの濡るるのみなる

    世の中よあわれなりけり
    常なけどうれしかりけり
    山川に山がわの音
    からまつにからまつのかぜ




宿場の晩秋

2022年11月18日 | 
秋来れば空高く
水清らかに山深く
旅人の宿りの場
蜜垂れるやわらかき餅をはむ
在りし日の人の往き交うを思ひ
地酒汲み
山の獣の肉を焼き
風の音を近く耳にし
小寒い夜を寝明かす
辺りは漆黒にも空に星
人は皆眠りにつき人恋し 
旅の宿晩秋

いにしへ 日本の慕情 

2022年10月26日 | 

ふるさとの

          三木 露風


ふるさとの 小野の木立に
笛の音の うるむ月夜や

 おとめごは 熱き心に
 そをば聞き なみだ流しき

  十年(ととせ)へぬ おなじこころに
  君泣くや 母となりても



秋刀魚の歌  佐藤 春夫の秋

2022年10月15日 | 

  秋刀魚の歌

                        佐藤 春夫   

あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば伝えてよ
―――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食(くら)ひて
思ひにふける と。

さんま、さんま 
そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて
秋刀魚を食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて 女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さな箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸(わた)をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝こそは見つらめ
世のつねならぬかの団樂(まどい)を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証せよかの一ときの団樂(まどゐ)ゆめに非ずと。

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫に去られざりし妻と
父を失はざりし幼児とに
伝へてよ
―――男ありて
今日の夕餉に ひとり
秋刀魚を食ひて
涙をながす と。

さんま、さんま、
さんま苦いか塩っぱいか、
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。