とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

(2)議論再燃。「処理水海洋放出」は何がまずいのか? 科学的ファクトに基づき論点を整理する 2019.09.27 牧田寛

2021年04月13日 08時22分42秒 | 福島原発事故
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 既述のように、去る9月10日に退任寸前の原田義昭前環境大臣による「海洋放出しか方法がないというのが私の印象だ」「思い切って放出して希釈すると、こういうことも、いろいろ選択肢を考えるとほかに、あまり選択肢がないなと思う」という発言が報じられた頃から、「トリチウムは、世界の原子力発電所では海洋放出されている。だから当然、福島第一のトリチウム水は海洋放出しても全く無問題だギャハハハハ」という金太郎アメ発言が大量発生し、今も続いています。それらの発言者は大概が次の図を添付して論拠としています。発言者達は、「自分たちは、冷静で科学的な主張をしているプゲラ」とまで自己主張しています。
世界の核施設、原子力発電所からの年間トリチウム排出量

世界の核施設、原子力発電所からの年間トリチウム排出量
なぜか日本の核・原子力施設については一切図示されていない
多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会説明・公聴会説明資料p.p.33 2018/08/30より

 さて、これらの自らを「冷静で」「科学的」と自称する主張は妥当でしょうか。
 
 これらの主張は、根本的に誤っています。完全な誤りです。そして科学からかけ離れた主張であり、これらが自らを「科学的」と自称することは、悪質な僭称(せんしょう)です。
 
 なぜか。ここまでに事実として明らかになっているように、福島第一原子力発電所の莫大なタンクの中にある液体は、かつて呼ばれていた「トリチウム水」ではなく、「処理水」という表現も怪しい、過去8年間、処理に失敗してきた「ALPS処理失敗水」に過ぎないからです。
 
 より正確な表現をするならば、「ALPS不完全処理水」です。
 
 トリチウムは、水からの分離が難しく、原子力の商業利用においては基本的に環境に捨てるしかありません。幸い、トリチウムは生物濃縮しにくく、無機形態であるならば速やかに生体から出て行きますので、高濃度のトリチウム雰囲気を作らないことが重要です。放射毒も比較的弱いためにトリチウムは、特例的に環境放出が一定限度の自主基準、法定基準において認められてきた経緯があります。
 
 しかし、福島第一原子力発電所の「処理水」、実態は「ALPS不完全処理水」は、およそ存在するはずの無い告示濃度を遙かに超過した多くの放射性核種を含んでいます
 
 従って、福島第一原子力発電所の「処理水」=「ALPS不完全処理水」を正常な原子力・核施設から排出されることが認められている「トリチウム水」と同列に述べることは、事実に反し、完全に誤っています
 
 繰り返しますが、福島第一原子力発電所の「処理水」=「ALPS不完全処理水」を、正常な原子力・核施設における「トリチウム水」と同列、同等に論じることは、根本的且つ完全な誤りです。
 
 簡単に例えれば、「未処理のウンコやオシッコ、トイレットペーパーが混ざる浄化不完全の水」と「下水処理施設で浄化済の水」を同列、同等に述べて、ウンコ、オシッコ、トイレットペーパーを膨大に海や川に放出するに等しい主張です。情けないことに、大雨が降ると、お台場でその実態を見ることができると報じられています。
 
 原子力・核工学と原子力・核産業は、規制(自主規制含む)の上に成り立つ工学であり、産業です。福島第一原子力発電所に100万トン余り存在し、恐らくそのうちの8割前後に及ぶ「ALPS不完全処理水」を「処理水」と僭称し、海洋放出する行為は、自ら規制を破壊する、自滅行為でしかありません。
 
 このようなことを相変わらず画策するのが東京電力だけで無く環境省、原子力規制委員会であると言うことが度し難い実情であり、致命的な信用失墜行為です。経産省は、昨年8月30日31日の公聴会での盛大な失敗が堪えているのか、かつてよりはやや消極的になってきたと思われます。
 
 今回厳しく指摘したように、ある事実において、饒舌に大量の情報を出しながら不都合なことは隠すまたは分かりにくくして言及しないというやり方は典型的なプロパガンダ技法であり、デマゴギーです。典型的な事例が、今回再三取りあげてきた2018/08/30、31公聴会での説明*です。これらでは、東京電力ほかが知っていたにも関わらず、タンクの中身は「トリチウム水」であって他の放射性核種の存在に言及していません。完全に欺す気満々です。
<*多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会説明・公聴会説明資料p.p.22 2018/08/30より

まっとうに社会的合意を得ることを放棄したヒノマルゲンパツPA

 
 
 原子力は社会的合意を得るためにPA(Public Acceptance:パブリック・アクセプタンス=社会的受容)事業が欠かせません。PAとは、本来は情報を包み隠さず開示し、その意味を伝え、討議した上で合意を得るという手続きを意味します。しかし実際にはこの「トリチウム水」問題が典型のように、重要な情報を隠し、市民を欺した上で資金と権力を笠に着た強圧的手法で合意形成をでっち上げるという手法が横行してきました。昨年の失敗した公聴会に至る過程がその典型事例と言えます。
 
 このHBOL原子力シリーズで筆者は、この日本独自の似非PAを「ヒノマルゲンパツPA(JVNPA: Japan’s Voodoo Nuclear Public Acceptance)」と名付けて厳しく批判してきています。
 
 JVNPAは、国内でしか通用しない理屈であり、国外からは核を弄ぶ蛮族の凶行にしか見えません。結果、海外から厳しい批判を集めることとなります。そもそも、嘘とペテンと場合によっては暴力で形成された合意の上で事を起こしても結果は公害の発生です。例え公害に至らなくとも、信用失墜は経済活動を潰します。
 
 JVNPAにおいては、それを「風評被害」と連呼して、消費者や顧客へと責任転嫁します。
 
 現在、ヒノマルゲンパツPA業者やヒノマルゲンパツPA媒体、ヒノマルゲンパツPA師が氾濫させている嘘=ヒノマルゲンパツPA(JVNPA)は、およそ考え得る限り最も卑劣で愚劣で有害なものと言えますが、彼らがいくら嘘を氾濫させようと事実は変わりません。
 
 しかし、ヒノマルゲンパツPA(JVNPA)に侵された政治は明確に科学を著しく歪めます。それが「科学的」と僭称する完全に誤った前提による政治的主張と言えます。そしてそれらの特徴は、「科学的」という言葉を非常に好んで使い、「科学」を権威として使うことです。科学とは、その根本が懐疑主義と実証主義であり、権威主義とは対極であって、「科学」という言葉の濫用は何の意味もありません。「事実」を「検証可能な証拠」と共に提示すれば「科学」という言葉を権威化して依拠する必要はないのです。
 
 公害の歴史は人類の歴史ですが、「科学的」と僭称する科学的に誤った=エセ科学的(権威主義的)政治主張が公害を蔓延させ、激甚化させてきています。このような誤りを繰り返してはいけません。
 
 本連載では、今回取りあげ概説してきた各項目についてそれぞれ詳説していくことを考えています。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』「トリチウム水海洋放出問題」再び編1 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
 
 
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