9月27日、自民党の総裁に石破茂元幹事長が選出された。ほっと胸を撫で下ろした方も多いだろう。
驚きの展開だが、いずれにしても来週には、所信表明と衆参両院の本会議で各党の代表質問が行われることになる。石破氏はそれらの場で今後の政策について方針を述べることになるが、選挙を前にどこまで具体的に表明するか、また選挙戦を通じてさらに目玉になるような政策を出すのかが注目される。
報道では見えないが、永田町が総裁選に集中している間、霞が関ではこの日に向けた準備が進められてきた。新首相や各省庁の秘書官人事、就任直後の記者会見の想定問答などは全て総裁選前に主要候補ごとのバリエーションも含めて整えていたはずだ。
各省庁の幹部官僚にとって、新大臣に、予定した秘書官人事を承認させ、就任記者会見で想定問答通りに発言させることが、最初の重要な仕事となる。さらには、国会の代表質問や選挙戦における大臣発言の管理という重要課題もある。
とりわけ、2025年度予算及び24年度の補正予算や今臨時国会や来年の通常国会に提出する法案、さらには、重要な政策の基本に関わる計画の策定などについて、可能な限り具体的に自分たちのやりたいことをそのまま大臣に発言させることが必要だ。
そうしておけば、後で大臣がそれらの重要事項について問題があると気づき、それを見直そうとしても、自らの発言を撤回して国会や世論に批判される状況に陥るので、官僚の方が優位に立てるという計算である。
逆に、新首相や新大臣たちが、これまでの政策を止めたり、修正したりしたい場合には、最初の1週間程度の間にそれを宣言するか、少なくとも、その問題について最初に質問された時に、事後に現行の方針を覆したり、修正したりしても問題にされないような抽象的な受け答えをしておく必要がある。
そのためには、一刻も早く、現行のどの政策を見直すのかを見極めることが重要だ。
もちろん、全てを変えることはできないから重点を定めなければならない。
そうした観点で見た時、私が心配している問題がある。最初の1週間で、官僚に騙されて石破首相が後戻りできなくなる心配がある案件があるからだ。それは、今後の世界の中での日本の立ち位置を決めると言っても過言ではない、生成AIと先端半導体に関する政策である。
具体的に解説しよう。
政府主導半導体開発プジェクトの失敗が不可避なワケ
経済産業省が進める生成AIの推進とそのための先端半導体開発の切り札が「ラピダス」プロジェクトだ。世界最先端の半導体製造企業である台湾のTSMCが製造する回路線幅3ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)の生成AI用半導体を超える2ナノレベルの半導体を27年に量産するという夢のようなプロジェクトである。
このプロジェクトが失敗必至だという話は、1年以上前の23年9月5日配信の本コラム「経産省肝いりの半導体企業『ラピダス』への巨額投資は愚策 米IT大手トップも『失敗確実』」などで指摘したとおりだが、実は、その後も失敗の確率はますます高くなっている。
このプロジェクトの必要資金が5兆円と試算されているのに対して、民間企業からの出資が設立時の約73億円から一向に増えず、民間銀行の十分な融資も見通せないことがわかってきた。つまり、民間企業は誰も相手にしていないのだ。
経産省は、例えば、北海道千歳市のラピダス工場建設の起工式に世界の大企業のトップが駆けつけたなどと宣伝したが、来たのは、ラピダスが湯水の如く税金を使って買い求める半導体製造装置メーカーのトップばかり。本来は、世界中で不足する先端半導体を買いたいと考えているGAFAMやテスラなどが関心を示すはずなのに、彼らはそっぽを向いたままである。ソフトバンクの子会社で先端半導体の開発に欠かせない機能設計回路などを提供するアームという会社が、その株式10%を米国市場に上場すると発表した途端、GAFAMやテスラ、さらにはTSMCまで出資させてくれと競い合って集まったのと比べると、いかにラピダスが相手にされていないかがわかる。
そんな状況なので、経産省は、とりあえずということで、9000億円を超える支援をせざるを得なくなったのだが、それは、土地と工場建設や幾つかの設備購入などで使い果たしてしまう。その後の製造ラインを動かしていくためには、また毎年のように兆円単位の資金が必要だ。本来は、時間の経過とともにこのプロジェクトへの期待が高まり、工場の形が見えてくる今頃までには、企業からの出資が数千億円集まり、銀行も兆円単位の融資をしてくれるという算段だったようだが、そうはなっていない。
そこで、経産省は、民間銀行に莫大な融資をさせて、それを政府が保証するという枠組みを考えた。しかし、失敗すれば国民負担になる。それも兆円単位だ。そのための予算を組み、それを可能にする法律を通すには、少なくとも数千億円から兆円単位の民間出資と銀行が本当に巨額融資するということを事前に示す必要がある。そうでなければ、財務省も説得できないし、国会で法律を通すことも困難だ。
経産省は、この臨時国会に法案を出し、補正予算で必要な資金を確保しようとしたが、それは難しいようだ。齋藤健経産相は20日、法案提出は来年の通常国会まで延期せざるを得ないという趣旨の発言をした。