「飲み会は断わらない」と“接待上等”を豪語していた山田真貴子・前内閣広報官が病気を理由に辞任した。官邸は後任に小野日子(ひかりこ)・外務副報道官を起用し、“山田隠し”を急いでいるが、国民が怒っているのは彼女に対する“罪と罰”のアンバランスに「上級国民」である官僚の特権、官民格差を感じ取っているからだ。
山田氏は総務省ナンバー2の総務審議官当時、「菅さま」と呼ぶ菅首相の長男・正剛氏ら東北新社幹部から7万円あまりのステーキ接待を受け、あまつさえNTTからも接待されていたことが週刊文春に報じられている。
この東北新社からの接待問題で総務省は、情報流通行政局幹部ら11人を国家公務員倫理法(規程)違反で処分した。山田氏も本来なら処分対象のはずだが、同氏はすでに総務官僚ではないのがポイントとなる。昨年9月に「事務次官級」のポストである特別職の内閣広報官に就任する前、総務省を退官(昨年7月)していたことから、「役所を退職した者を処分できない」という理由で罰を免れた。
民間企業であれば、不祥事で懲戒免職になった社員は退職金が減額されることが多い。もし、民間サラリーマンが不祥事で退職に追い込まれるとどうなるか。人事コンサルタントで社会保険労務士の内海正人氏が語る。
「民間企業は、本人の申し出で退職する場合でも、懲戒処分を受ければ退職金の減額を就業規則に盛り込んでいるケースが多い。ましてや、不祥事で名前を報道されたとなると、退職後の再就職が難しくなると考えられます。
現在のコロナ不況下ではなおさらです。厚労省は解雇や雇い止めが9万人を超えたと発表したが、あれは氷山の一角。職を失って再就職もままならない、住宅ローンが残っているような人だと、自宅を手離さなくてはならない状況に追い込まれることなどが考えられます。老後の人生設計を再構築せざるを得ないでしょう」
一方の山田氏は前述の通り昨年7月に総務省を退官している。次官級の退職金は約5000万円にのぼる。接待問題が発覚すると、内閣広報官の月給の6割に相当する70万5000円を自主返納し、金銭的ペナルティを受けたように見えるが、これは見せかけだ。
菅政権は今回の接待問題で更迭した秋本芳徳・情報流通行政局長の後任に、山田氏の夫である吉田博史・総括審議官を抜擢した。国家公務員指定職の俸給表などから試算すると、吉田氏は月給81.8万円(年収約1500万円)の総括審議官(指定職俸給表3号俸)から月給96.5万円(年収1770万円)の局長(同5号俸)への2階級特進で、年収が250万円アップ。夫婦合算の収入で考えると返納分を取り返せるどころか、お釣りがくる。
ちなみに山田氏の総務審議官時代の月給(俸給表7号俸)は110.7万円(年収約2190万円)で夫と合わせ3500万円を超える世帯年収があった計算だ。夫婦は2005年に千代田区の“億ション”を購入し5年間でローンを返済したと報じられている。不祥事で退職しても、ローン地獄の心配とは無縁だ。国会では、7万円接待の席でのことを問われ、「覚えていない」を連発した山田氏だが、これだけの“役得”があれば、7万円会食程度のことが記憶にないのは無理もないことなのかもしれない。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号