第3次世界大戦につながるのか
英北部スケルマースデイルに住むクレイグ・ジョンソンさんは、「もしイランがこの紛争に直接関与した場合、それを受けてアメリカとその同盟国も、直接参戦する可能性はあるか」と質問を寄せた。
イスラエル南部で取材しているジェレミー・ボウエン国際編集長は、次のように答えた。
イラン、あるいはイランが支援するレバノンの武装組織ヒズボラによる介入の可能性について質問されると、ジョー・バイデン米大統領はこう答えた。「やめろ」と。
イランに対して「介入するな」と確固たるメッセージを発することを目的として、アメリカは二つの空母打撃群を東地中海に派遣したばかりだ。
つまりアメリカは、この紛争に介入しようとする者は、イスラエル軍だけでなくアメリカ軍の威力を前にすることになるのだと、そう言っている。
中東には、地域を貫く大きな断層がある。アメリカと仲間たち、そしてイランとその仲間たちの分断だ。
どちらも、リスクは承知している。双方の対立が従来の冷戦状態から、「熱い」実際の戦争に変わった場合、中東では世界全体に影響する本格的な紛争が勃発することになる。
イスラエルの狙いは
スコットランド南東部スコティッシュ・ボーダーズに住むルシアーノ・シシさんは、「予想されている地上戦で、イスラエルの全般的なねらいは何か」と尋ねた。
イスラエル南部で取材するリーズ・ドゥセット主任国際編集委員は、次のように答えた。
これまでの戦争で、イスラエルは「ハマスを徹底的にたたく」と誓っていた。イスラエルにロケット弾を撃ち込む能力を破壊し、巨大な地下トンネル網を破壊すると。
今回はこれまでと違う。イスラエルは「ハマスを破滅」させると誓っている。「イスラム国」(IS)と同様に、ハマスは殲滅(せんめつ)させるべきだと。
イスラエルには、ハマスの組織としての成り立ちを破壊し、トンネルをつぶし、指揮系統を打ち砕くだけの、軍事力がある。
しかし、自分たちに今後待ち受ける展望について、イスラエルがどこまで把握しているのかは不透明だ。ハマスの戦闘力は、イスラエルに衝撃を与えた。その戦闘力には、イスラエルの警備体制を驚くほど細かく把握していたことも含まれる。だからこそハマスは、イスラエルの強力な防衛を乗り越えられたのだ。
イスラエルが猛然と反撃してくると、ハマスは承知している。それを迎え撃つにあたり、ハマスは最初の攻撃と同じくらい練り上げられた態勢で臨んでくるはずだ。
ハマスは何を目指して攻撃したのか
イギリスのアンドリュー・パーカーさんは、「そもそもハマスは当初の攻撃で何を目標にしていたのか」と質問した。
これに対して、フランク・ガードナー安全保障担当編集委員はこう答えた。
「もうたくさんだ」。これが、ハマス報道官モハメド・アル・デイフ司令官による、当初の説明だった。
7日の攻撃は、ガザとヨルダン川西岸の両方で、パレスチナ人が絶えずイスラエル人によって挑発され、屈辱的な思いをさせられていることへの回答だったと。
しかし、それ以外にも語られていない理由はあるだろうと、複数の専門家はみている。
今回の攻撃の前、イスラエルとサウジアラビアは関係の正常化へ向けて動いていた。
これにはハマスと、ハマスを支援するイランが反対していた。サウジアラビアは今や、イスラエルとの交渉を停止している。
けれども、それだけでもまだ足りないだろう。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる右派政権が提案した司法改革が、イスラエル社会を鋭く分断していることに、ハマス幹部は気づいていたはずだ。
ハマスは、イスラエルに厳しい一撃を浴びせようとした。そしてその点において、ハマスは成功したのだ。
なぜエジプトはガザ境界の検問所を開かないのか
イギリスのダイアナさんは、「ムスリム(イスラム教徒)は、イスラムは大きな家族で連帯しているとよく言う。では、エジプトがガザとの境界を封鎖し続けていることについて、エジプトのムスリムはどう正当化できるのか」と尋ねた。
イスラエル南部からボウエン国際編集長は、こう答えた。
イスラム教は信仰だが、国の安全保障にまつわる政治を必ずしも超越するとは限らない。
エジプトに住む何百万人ものムスリムの人たちは、ガザの民間人の苦しみを前に、何とかしたいと思っているはずだ。
しかしエジプト政府は、たとえ平時だったとしても、ラファ検問所を越えてガザからエジプトへ入ることを認めていない。イスラエルは今回、ガザ地区を完全封鎖しているが、ハマスが2007年からガザを実効支配するようになってからというもの、エジプトは同じようなことをしていたのだ。
ハマスは、約100年前のエジプトで結成された「イスラム同胞団」を起源とする。同胞団は、イスラム教の教義と信仰に沿った形で、国と社会を作り直そうとする。
エジプト軍は、その願望に反対した。2013年には、イスラム同胞団から選挙で選ばれたモハメド・モルシ大統領をクーデターで追放した。
エジプトの現政権はハマスと関係し、過去にはハマスとイスラエルの間を仲介したこともある。しかし、パレスチナ難民が国内に流入してくることを、エジプト政府は望んでいない。
ガザ地区に残る難民キャンプは、建国間もないイスラエルに追い出された難民のために作られてから75年間、まだ存続している。イスラエルに故郷を追われたパレスチナ人は、いまだ帰還が認められていないのだ。
ハマスの行為は戦争犯罪なのか
イギリスのサイモンさんは、「世界はプーチンに対して国際的な逮捕状を発行した。なぜ同じような対応を、ハマス幹部にしていないのか。これはとてつもない規模の戦争犯罪だったのではないか」と尋ねた。
ポール・アダムズ国際情勢編集委員は、こう答えた。
紛争は何年もさかのぼり、継続していたが、イスラエルは10月7日になるまで、ハマスと戦争状態にあるとは考えていなかった。
イスラエルにとって、ハマスの行為は戦争ではなくテロ行為だ。
ネタニヤフ政権は独自の方法で正義を追い求め、7日の虐殺の責任者だとするハマス幹部を少なくとも2人、すでに殺害している。
今後もさらに、ハマス幹部を殺そうとするだろう。
ハマスの政治的幹部は、カタールとレバノンに住む。この人たちの扱いは、今後いずれ論点になっているかもしれない。ただし、政治部門の幹部たちは、軍事部門によるイスラエル侵攻計画を知らなかったとも言われている。
なぜ国連はイスラエルの空爆に介入しないのか
ロンドンのサドゥル・ホークさんは、「イスラエルが民間人を殺害し、今後も空爆で大勢を殺すだろうと、誰もが思っているなら、なぜ国連やほかの国々は介入していないのか」と尋ねた。
ジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員は、こう答えた。
イスラエルに空爆をやめるよう多くの国が呼びかけていない、その主な理由は、ハマスに攻撃されたイスラエルには自衛権があると諸国が受け入れているからだ。
その自衛権をどう行使するかについては、各国はイスラエルに自制を求めている。
リシ・スーナク英首相は16日、「民間人への影響をできるだけ減らす必要があると、イスラエルの首相に伝えた」と述べた。
国連も、民間人の被害を避けるようイスラエルに働きかけている。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は13日、「国際人道法と人権法の尊重と堅持が必要だ。民間人は保護しなくてはならないし、決して盾として使ってはならない」と述べた。
イスラエルは、自軍の戦闘機による空爆や砲撃はガザでハマスを標的にしているのだと力説する。しかし、その攻撃で実際に、多くの民間人が死傷している。
これはイスラエルの攻撃が過剰で無差別だからだと、パレスチナ側は主張する。イスラエルは、これはハマスが民間人を人間の盾として利用しているからだと言う。
なぜイスラエルは、ハマスの攻撃を事前に察知していなかったのか
匿名の読者は、「ハマスがガザのどこにいるか正確に把握するだけのインテリジェンスや監視情報を得ているにもかかわらず、いったいどうしてイスラエル軍は、ハマスがイスラエルを攻撃するつもりだと事前に知らず、攻撃の兆候にもまったく気づいていなかったのか」と尋ねた。
エルサレムで取材するヨランド・ネル中東特派員は、こう答えた。
イスラエル軍はかつて、ガザを監視する指令本部をジャーナリストに披露したことがある。それによると、イスラエルはドローンその他のカメラから、地上での動きに関するリアルタイム情報は、確実に的確に得ている。
無数の情報提供者からなる、膨大なネットワークもある。
今年5月の時点でイスラエル軍がガザの武装組織「イスラム聖戦機構」と戦っていた際、主な戦闘員の位置について、イスラエル軍がいかに正確な情報を得ているか、私たちは目の当たりにした。
イスラエル軍関係者は記者会見で、ハマスによる今回の前例のない大攻撃について、軍のインテリジェンス・安全保障活動に深刻な失敗があったと認めている。
それでも、イスラエル側はハマスの標的の居場所について、正確で長大なリストを確実に持っているし、地上戦が始まり次第、その標的を追跡していくはずだ。
ヒズボラはハマスと比べてどうなのか
ガザ地区を北上すると、レバノンとイスラエルの関係が激しく悪化している。読者の一人は、「もしレバノンが関与してきた場合、ハマスに比べてヒズボラの威力はどうなのか」と尋ねた。
レバノン南部で取材しているヒューゴ・バシェーガ記者はこう答えた。
ヒズボラはレバノンにおける軍事的、政治的、そして社会的な運動だ。イスラエルはもう長年、ハマスよりも手ごわい相手だと、ヒズボラを見てきた。
イランに支援されるヒズボラは、充実した軍備をもち、推定13万発のロケット弾とミサイル砲を保有していると、米戦略国際問題研究所(CSIS)は言う。
この砲弾のほとんどは、小型で携行型の、無誘導地対地ロケット弾だ。
そのほかに、対空と対戦車のミサイルや、イスラエル領内の奥深くを砲撃できる誘導型ミサイルも持っている。
ハマスの保有武器に比べて、ヒズボラのそれははるかに洗練されている。
ヒズボラ幹部は、抱える戦闘員の数は10万人だと主張している。一方、第三者の推計では2万人から5万人だ。その多くはしっかり訓練された戦場のベテランで、シリア内戦で戦った経験を持つ。
これに比べてハマスの戦闘員の数は、イスラエルによると、推定3万人にとどまっている。