新天皇即位まで2か月。皇太子さまが「お言葉」に込めた思いとは?
◆誕生日の前日に東宮御所を訪れた安倍首相の目的は……?
2月23日、皇太子さまが59歳の誕生日を迎えられた。これに先立ち、即位前最後となる記者会見を実施。心境を問われて「両陛下がなさっておられるように、国民に常に寄り添い、人々と共に喜び、あるいは共に悲しみながら象徴としての務めを果たしてまいりたい」と述べられた。
⇒【画像】新天皇 今後のスケジュール
両陛下にならい「国民に寄り添う」ことを強調されたが、一方で「その時代時代で新しい風が吹くように、皇室の在り方も変わってくるものと思います。私も過去からさまざまなことを学び、古くからの伝統をしっかりと引き継いでいくとともに、それぞれの時代に応じて求められる皇室の在り方を追い求めていきたいと思います」とも。即位に向けた強いお気持ちを感じさせるお言葉だった。皇室ジャーナリストの久能靖氏も次のように話す。
「平易な言葉を使っていらっしゃいましたが、即位されるにあたっての決意と覚悟のほどが伝わる内容でした。皇太子殿下は性格的に極めて慎重な物言いをされる方なので、なかには『もっと具体的な抱負を聞きたかった』という人もいるかもしれませんが、今はまだご自分の御代ではありません。
あくまで両陛下の御代ですから、自分ならこうやるとお話しになることを自重されたのでしょう。即位後の朝見の儀のときに初めて国民に向けてご自身のお気持ちを述べられ、すべての儀式が終わったあとの記者会見では新たな天皇としての在り方などについても述べられることでしょう」
一方、会見では慎重に言葉を選んでお話しされる場面もみられた。昨年11月に秋篠宮さまが、天皇の代替わりに伴う皇室行事である大嘗祭について「宗教色が強いものを国費で賄うことが適当かどうか」と述べられたが、これについて問われた皇太子さまは「今回政府が決定した内容について、私がこの場で何か述べることは控えたい」と答えられた。
また、新皇后になられる雅子さまの今後のご活動を問われた際には、「着実に快復してきているとはいえ、依然としてその途上にあり、体調には波もありますので、雅子には引き続き焦ることなく、少しずつ活動の幅を広げていってほしいと願っております」と、いまだ万全の状態ではないことを説明されたのだ。
◆不安の声を漏らす人も
この点について、不安の声を漏らす人は少なくない。その一人が、麗澤大学教授で法学者の八木秀次氏だ。
「1月16日に両陛下が出席されてお歌を披露される最後の歌会始の儀がありました。体調を崩されて’04年以降欠席されている雅子さまも、今回は出席するかと思われましたが、姿は見られなかった。皇太子さまは両陛下の意思を引き継ぐとお話しされていましたが、天皇皇后両陛下が常におふたりで行動される“平成スタイル”はとても踏襲できる状態ではないでしょう。
これまで宮中祭祀に参加された回数が圧倒的に少ないことを考えると、ご公務と祭儀が目白押しとなる5月以降のハードスケジュールはとてもじゃありませんが、こなせると思えません。仮に直前で欠席されるようなことが続くと、さらに不安を覚える国民が増えかねない」
ただし、代替わりに伴い皇室に対する風当たりが強くなるのは、世の常だという。久能氏が話す。
「私はかつて、陛下が平成3年に起きた雲仙普賢岳の噴火災害の被災地を訪問される様子を取材させてもらいました。その時、陛下は避難所でスリッパも履かず、膝をついて被災者をお見舞いされ、それ以降、変わらぬ姿勢で被災者に寄り添い続けたのです。
こうした取り組みは今では国民に広く知られていますが、当時は『天皇が膝をつくとは何事か!』という批判の声が一部であがりました。昭和天皇はそんなことをされませんでしたからね。お代替わりの直後は、前の天皇と比較され、バッシングが起こりやすいのです」
◆皇后は一切公務をしなくてもいい
これを踏まえて、久能氏は「国民の理解が不可欠」と話す。
「雅子さまが宮中祭祀に参加される回数が少なすぎると批判する方がいますが、年間30回近くある祭儀のなかで、皇后さまがなされるものはそう多くありません。1月1日の早朝に執り行われる四方拝からして、天皇陛下おひとりでなされるもの。男だけと決められている祭儀のほうが多いのです。
一方で、雅子さまは非常にまじめな方なので参加されたときの所作などは完璧。回数が少ないという理由で、皇太子妃としてお務めを果たされていないと批判するのは筋違いと言っていいでしょう。そもそも、皇后としてのご公務について定めた法律はありません。極端な話、皇后は一切公務をなされなくてもいいのです。こうした実情を理解して、温かい目で皇室を見られるのがよいでしょう」
とはいえ5月以降、新天皇皇后両陛下が臨まれる行事ごとは多すぎる。5月26日にはトランプ大統領が来日し、新天皇と会見されることも決定した。そのためか、安倍首相は誕生日前日に皇太子さまと異例の面会を行っている。八木氏は背景に「皇室との距離」があると分析する。
「昭和天皇が療養中だった’88年には当時の竹下登首相が東宮御所の皇太子さまを2回訪問して、新元号についてお話されたと言われています。今回も新元号に関して皇太子さまのご意向を直々に伺いにいった可能性がありますが、皇室との良好な関係を築きたいという狙いが安倍首相にあったとも考えられます。
なぜなら、今上天皇は第2次安倍政権誕生後の’13年の誕生日会見で『戦後、日本は平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法をつくり』と護憲的なお言葉を述べられました。’16年に生前退位に関するお言葉を述べられた際には『象徴天皇』という言葉を繰り返し用い、天皇を国家元首と規定する自民党の改憲草案に対するカウンターでは?とささやかれました。安倍政権と今の天皇陛下との間には少なからず溝があるのです」
本当に政権と距離があるかどうかは定かでないが……陛下が平和を願い、ご公務に取り組まれてきたのは間違いない。昨年12月の最後の誕生日会見でも、言葉を詰まらせながらも「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」と述べられたのは記憶に新しい。残すところ2か月、新天皇皇后両陛下のもとでも平和が続くことを祈りたい。
▼長年携わってきた災害や貧困対策にも関わる「水」問題
皇太子さまは会見で、「水」問題を即位後の公務の一つに据える考えを示された。近年日本を襲う豪雨災害や台風、津波などにも言及。「災害救助や復旧・復興の折に示された絆とも称される助け合いの精神」に人々のやさしさや強さを見たと述べられた。今後は「水」問題への取り組みで得られた知見を生かしていくという
取材・文/週刊SPA!編集部 写真/産経新聞社