首相は式辞の大部分については、安倍氏の20年、菅義偉前首相の21年の式辞の内容を踏襲した。だが「歴史の教訓」については、「戦後、我が国は一貫して平和国家としてその歩みを進めてきた」と述べたうえで触れた。

 歴史認識に関しては、安倍氏は13~19年の式辞で「歴史と謙虚に向き合い」「歴史を直視し」などと言及してきたが、20年の式辞では触れなかった。政権を引き継いだ菅氏は翌21年に「歴史」に言及したものの、「平和と繁栄は戦没者の皆さまの尊い命と、苦難の歴史の上に築かれた」と述べるにとどめた。

 安倍政権下で15年に閣議決定した戦後70年談話では「歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り開いていく」と盛り込まれており、この表現を踏襲したとみられる。19年の安倍氏の式辞と同じ表現で、戦後の日本の平和国家としての歩みを紹介する中での言及にとどめた。

 アジア諸国への加害責任についても触れなかった。1994年の村山富市氏以降、歴代首相は「反省」に言及してきたが、13年に安倍氏が言及をやめて以降、10年連続で触れなかった。

 式辞では「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」との歴代首相の「誓い」を踏襲した。そのうえで国際情勢についてウクライナ情勢などを念頭に「いまだ争いが絶えない世界」と表現し、「積極的平和主義の旗の下、国際社会と力を合わせながら、世界が直面するさまざまな課題の解決に全力で取り組む」との方針を強調した。「積極的平和主義」は集団的自衛権の行使容認などを進めた安倍政権の外交・安全保障分野の理念で、安倍氏の方針を継続する意向をにじませた。

 「岸田カラー」を強めたい首相だが、安倍氏を支えた保守支持層の離反をどう防ぐのかは課題だ。式辞からは安倍氏への配慮も色濃くにじむ。【菊池陽南子】

(岸田文雄首相:画像はネットから借用)