「ヨシ・ジョー」関係で有頂天の菅首相
(電子文字は削除されることが多いので全文コピペしておきます)
菅義偉首相は1月28日未明の午前零時45分(ワシントン時間27日午前7時45分)、ジョー・バイデン米大統領との30分間電話対談を行った。
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/
その後、至極ご機嫌のようだった。
「ヨシ(義偉)、ジョーと互いにファーストネームで呼び合うことを申し合わせた。個人的な関係も深めつつ、日米同盟の強化に向けてしっかり取り組んでいきたい」<iframe width="1" height="1" frameborder="0"></iframe>
首相側近は「アジア諸国首脳との電話会談では日本がトップバッターだった」と記者団に強調した。
当たり前だ。日本は米国にとってアジア最強のパートナーなのだ。
バイデン氏が就任後、真っ先に電話したのは隣国のカナダとメキシコの首脳(22日)だった。
次いで「特別な関係にある英国」のボリス・ジョンソン首相(23日)、フランスのエマニュエル・マクロン大統領(24日)、北大西洋機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長(26日)、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(26日)の後、菅首相だった。
水をかけるようで申し訳ないが、首脳同士がファーストネームで呼び合うこと自体、あまり意味がない。
日米首脳会談を何十回と取材・報道してきた筆者は、歴代首相がファーストネームで呼び合う約束事をしたと誇らしげに語るのを何度も聞いてきた。
「トシキ・ジョージ」(海部俊樹)「ソースケ・ジミー」(宇野宗裕)に始まり、「ロン・ヤス」(中曽根康弘)「シンゾー・ドナルド」(安倍晋三)に至るまで。
歴史的に見て、定着しているのは「ロン・ヤス」ぐらいなものだ。
大統領に限らず、米国人が初対面の時に「Call me John, I will call you Jim」と言うのは名刺代わりの挨拶のようなもの。
よほど相手に対して敵意を抱いていない限りだが、そのこと自体、あまり深い意味はない。
さて、就任したばかりの大統領がどこの国の首脳と電話会談するか。これは重要だ。
ドナルド・トランプ前大統領のように思いたったらすぐ電話するような型破りの大統領は別にして、外交儀礼を重んじるバイデン氏のような大統領の場合は特にそうだ。
事前に事務レベルで綿密な準備を整えている。やりとりは30分なら通訳が入るから15分程度。
先方(あるいはこちら)がしゃべり、こちら(あるいは先方)が応じる。やりとりは事務方が調整した筋書きで進む。<iframe width="1" height="1" frameborder="0"></iframe>
双方ともに事務方がイヤホンを通じて一字一句漏らさずに傍聴してメモする。
補佐官、外相、国防相同士ですり合わせ
菅・バイデン会談に先立ち、日米両政府は高官同士が以下のような電話会談・協議をしている。
1月21日:北村滋・国家安全保障局長とジェイク・サリバン大統領国家安全保障担当補佐官
1月23日:岸信夫・防衛相とロイド・オースチン国防相
1月26日:茂木外相とアントニー・ブリンケン国務長官
それぞれ日米の外交防衛問題をめぐる意見交換し、すり合わせをしている。
首脳会談はすり合わせた筋書きに沿って行われ、その内容は米サイドではホワイトハウスが会談内容を要約した公式声明(Readout)を作成し、記者団に配布している。
公式声明に書かれている以下の文言は補佐官同士、外務防衛首脳同士の電話でも米側は繰り返し明言していた。
「日米同盟は自由で開かれたインド太平洋における平和と繁栄の土台(Cornerstone)である」
「両首脳は、(米国の対日防衛義務を明記した)日米安保条約第5条(の適用対象)には尖閣諸島も含まれており、同条項に明記されている米国の日本防衛に対する揺るぎないコミットメントについて話し合った」
実は、尖閣防衛については、菅首相がバイデン氏の当選が事実上確定した昨年11月12日に電話した時もバイデン氏の口をついて出た。<iframe width="1" height="1" frameborder="0"></iframe>
菅首相は、12月19日、東京都内で行った講演で、初めての電話会談で先方から(尖閣防衛について)言及があり、正直、想定もしていなかった」と述べている。
これについて米国務省関係者の一人はこうコメントしている。
「第5条の適用範囲に尖閣防衛が含まれているという見解は、1990年代から密やかに、2000年代前半のジョージ・W・ブッシュ政権以降は公けになっている」
「閣僚レベルではっきりと明言したのバラク・オバマ政権のヒラリー・クリントン国務長官(当時)から。歴代大統領ではオバマ氏が2014年4月に初めて公言している」
「それ以後、尖閣防衛は米政府の対日防衛コミットメントの『代名詞』のように使われてきた」
「菅氏は当選祝いの電話でバイデン氏に言われてびっくりしたのだろうが、バイデン氏は上院外交委員長や副大統領経験者だ。同氏の外交ブレーンもどちらかというと共和党贔屓の日本(?)の首相に一発かましてやってはいかがか、と助言したのだろう」
「バイデン氏は日本人が何を言われると嬉しいか熟知している」
「ヨシヒデ・スガはすでに落第」
その菅首相を米国はどう見ているのか。あまり芳しくない。
「日本の首相、ヨシヒデ・スガはすでに落第」
米メディアで先陣を切ってそう書いたのは、日本在住の米人ジャーナリスト、ジェイク・エーデルスタイン氏だ。
政治、メディア、ポップカルチャーを主体に報道しているリベラル系ニュースサイト、「ディリー・ビースト」への寄稿文(2020年12月31日付)だ。
読売新聞の社会部記者として反社会的勢力を取材し、脅された経験を持つ。上智大学卒の異色のジャーナリストだ。
なぜ菅首相は落第なのか。エーデルスタイン氏はこう書いている。
「自民党内の裏取引で安倍晋三氏の後継者になった菅氏は、貧しいイチゴ栽培農家の出(実はそんな貧しい家ではなかった)ということで就任直後には大衆政治家とのお墨付きを得て世論調査では70%の支持率を得てスタートした」
「ところが就任100日を経ずして支持率は38%へと急落。日本学術会議の学者6人の任命拒否やパンデミックさなかの強引な『Gotoトラベル』固執などが奈落の底に落ちた主因だった」
「自分に逆らったり反対する者への寛大さがないことや思い上がりが露呈して、国民の顰蹙(ひんしゅく)をかったのだ」
「所詮、史上最長期政権を誇った安倍氏を『頭脳』とすれば、菅氏はその安倍氏の『筋肉』でしかなかった」
「菅氏は、ドナルド・トランプ大統領(当時)にとっての(言うことを何でもその通り代弁してくれる)ミッチ・マコネル共和党上院院内総務のような存在でしかなかったのだ」
「深刻な支持率下落で菅氏は卒業式の『総代(候補)』が一気にクラスのピエロになり下がったようなものだ」
(https://www.thedailybeast.com/japans-prime-minister-yoshihide-suga-flunks-his-first-100-days)
二階幹事長がバイデン対中外交に横槍か
その菅首相とバイデン大統領はどう付き合っていくべきか。
東アジア外交、安全保障問題では高い評価を得ている「パシフィックフォーラムCSIS」所長のブラッド・グローサーマン博士(現在多摩大学「ルール形成戦略研究所客員教授)が1月26日、論文を発表した。
タイトルは、「2021年:日本国内と対日関係に存在する計り知れぬフラストレーションの1年」(2021: A Year of Immense Frustration in and with Japan)。
グローサーマン博士の論旨はこうだ。<iframe width="1" height="1" frameborder="0"></iframe>
「せっかく安倍氏が国家ビジョンとそれを政策として実現してきた日本だが、安倍路線を継承すると約束して登場した菅首相は、ビジョンのなさと外交経験のなさゆえに約束を反故にしている。今日本にとって最大の問題は強力なリーダーシップの欠如だ」
「菅氏の頭の中に今あるのは東京五輪開催と新型コロナウイルス感染拡大阻止だけ」
「それに米民主党政権についての(先入観として入っている、日本にとっては共和党政権の方がいいという)不信感が付きまとっている」
「その結果、(菅政権では)日米関係は停滞はしなくとも、緩慢になる可能性大だ」
同博士は、安倍政権の8年間で、日本は自衛隊のモダニゼーション(近代化)を進め、東アジア太平洋地域諸国の軍隊の中でもキャパシティ・ビルディング(能力強化)を最もつけてきた、と評価。
さらに環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)や環太平洋経済包括的先進的パートナーシップ協定(CPTPP)などを実現、「自由で開かれたインド太平洋」構想実現に向け貢献している点を挙げてこう指摘している。
「日本は2013年に策定した(グローバル化が進む世界において、国際社会における主要なプレーヤーとしてこれまで以上に積極的な役割を果たすための指針として掲げた)『国家安全保障戦略』を2021年に改定する予定だというが、米新政権との戦略的パートナーシップを深化させる絶好の材料だった」
「バイデン政権にとっては、新たな対中戦略をスタートさせるうえで自信に満ちた日本の積極外交が必要だったからだ」
「ところが安倍氏から菅氏への『選手交代』で状況は一変してしまった」
「脆くて弱い首相の登場は、自民党内の派閥の領袖たちを勢いづけ、政策決定で大きな役割を与えてしまっている」
「日本の外交・安保政策の最重要な柱である対中政策決定では、対中軟弱派の二階俊博・自民党幹事長が絶対的な力を持っている」
「日本の財界でも中国へのソフト・アプローチを求める空気が強く、対中強硬派だったトランプ政権から柔軟派のバイデン政権へに移行を歓迎する向きが少なくない」
「日本の政権内部には、政府全体としての政策を遂行するうえで、リーダーシップの欠如と首相官邸の弱体化は大きな痛手だと不満を漏らすものも少なくない」
このグローサーマン論文は米政府部内や議会でもかなり読まれている。
国務省関係者の一人は、「頷ける論文だ」とコメント。さらにこう付け加えている。
「グローサーマン博士は、すでに日本に3年以上住んでおり、日本の国内政治については精通しているはずだ」
「専門分野の米国の対日外交安全保障政策をそのジャパン・レンズを通して見た現状はこの通りなのだと思う」
「それを百も承知でバイデン氏は菅首相に日米同盟関係の深化を呼び掛けている」
「意外と短命に終わるかもしれない菅政権だとすれば、その呼びかけは菅氏個人にではなく、日本という国家、日本政府に対するものにならざるを得ないだろうね」<iframe width="1" height="1" frameborder="0"></iframe>
そういえば、菅氏がこれまで国家戦略や国家安全保障観について語ったのを聞いたことはない。
日米軍事関係筋は筆者にこうコメントしている。
「今バイデン政権が最大関心を払っているのは、台湾海峡での中国の動きであり、台湾有事の可能性だ」(赤字は管理人)
「米国が尖閣諸島防衛をしきりに持ち出すのも、同諸島海域が実は中国海軍が台湾に攻め入る絶好のルートになっているからでもある」
「米軍が尖閣防衛出動する時は、当然、自衛隊との『日米統合機動展開部隊』での出動になる」
「(尖閣防衛について)『先方から持ち出すとは想定していなかった』などと嘯(うそぶ)くこと自体、総理大臣としての素質を疑われても仕方ないのではないのか」
日米首脳間の電話会談後の日本政府発表だけでその内容がすべて分かったかのように報じるメディアは要注意である。