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とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

異質な研究が4兆円市場に…“遊び化成”吉野氏の直感と孤独

2019年10月11日 09時36分34秒 | 時事問題(日本)

        

        公開日:2019/10/10 14:50 更新日:2019/10/10 14:50   日刊ゲンダイ
 
① サラリーマン研究者が世界的な栄誉に輝いた。9日、ノーベル化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)。スマホやノートパソコンなどに欠かせないリチウムイオン電池の「生みの親」だ。
 
 京大大学院で化学を研究し、1972年に旭化成に入社。リチウムイオン電池の開発に着手したのは81年のこと。最初から新型電池を目指したわけではなく、会社に与えられたテーマは「付加価値の高いプラスチックの開発」だった。
 その新材料が00年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏が発見したポリアセチレン。電気を通すプラスチックだ。吉野氏は電子を自在に出し入れできる特性が充電池素材に適していると直感。世間では当時、「ポータブル」という言葉が流行し、そして「コードレス」や「ワイヤレス」という言葉が盛んに使われるようになっていた。それぞれ今のモバイル、IT化につながる言葉だ。
 
 
②企業人として、研究が需要とどうつながるかを常に意識していた吉野氏は、流行語に秘められた充電池の小型軽量化という「時代のニーズ」を見逃さなかった。とはいえ、旭化成の主力商品は繊維とプラスチック。電池は社内で異質なテーマだった。吉野氏は昨年のインタビューで、「役に立つのか分からない基礎研究は孤独感との闘いだった」と語っている。
 
 紆余曲折を経て商品化にこぎ着けたのは91年。受賞会見で吉野氏は「約3年間、全く売れない時期があった」と笑いを誘ったが、ウィンドウズ95の発売以降、リチウムイオン電池は爆発的に普及。今や世界の市場規模は4兆円を超え、開発当時の予測の200倍を上回る。
 工学博士(化学)の秋元格氏が言う。
 
「80、90年代の日本企業は裕福で、基礎研究への予算も惜しみませんでした。特に旭化成は“遊び化成”と社員が自称するほど自由に研究でき、ユニークな繊維素材を生み出していた。ただ、長引く不況で企業も目先の利益に走り、基礎研究はなおざり。政府もサポートしませんが、吉野氏は基礎研究こそ日本のモノ作りの原点だと証明してくれました。そろそろ発想を転換すべきです」
 バブルの頃は良かった――。日本の将来を考えれば、そう懐かしんでいる場合ではないのだ。
 
 
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ノーベル化学賞吉野彰さんのキャリアにみる論文博士の価値

予想された受賞

 今年は吉野さんではないか…。メディアの予想どおり、旭化成名誉フェローで名城大学教授の吉野彰さんが、2019年のノーベル化学賞を受賞することが決まった。

 受賞内容はリチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)の開発。この記事もリチウムイオン電池搭載の機械で書いており、記事を読む皆さんの多くもスマホやノートパソコンなど、リチウムイオン電池の恩恵にあずかっているだろう。納得当然のノーベル賞だ。

 いつものごとく、日本人ノーベル賞受賞者決定のニュースにメディアの報道は過熱している。中でも、京都大学出身であることがクローズアップされている。また京大だ、やっぱりノーベル賞の京大だね…。そんな声が聞こえる。

吉野さんは論文博士

 しかし、私が注目したのが、吉野さんが旭化成入社後に、大阪大学から論文博士号を授与されていることだ。

このたび、本学工学研究科で博士(工学)の学位を2005(平成17)年に取得された吉野 彰 先生が、長年にわたる卓越した研究業績を世界的に評価され、ノーベル化学賞を受賞されましたことは誠におめでたいことであり、お祝いを申し上げます。

出典:大阪大学

 1948年生まれの吉野さんが博士号を取得したのが57歳のとき。論文博士のタイトルは「リチウムイオン二次電池と高出力型蓄電デバイスに関する研究」。学位授与番号は乙第9021号。いわゆる論文博士だ。

大学は,博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し,博士の学位を授与することができるとされており,これにより授与する学位のことをいわゆる「論文博士」と呼んでいる。

出典:文部科学省 円滑な博士の学位授与の促進

 企業や病院に勤めている研究者や医師などが、大学に論文を提出して審査を受ける。審査に合格すれば博士号が授与される。大学院博士課程に入学し研究することで取得できる、いわゆる課程博士とは異なる。

 かくいう私も論文博士だ。神戸大学医学部に学士編入後、研究と学業を両立させて論文を作成した。ただ私の場合、論文博士ではあるが、大学で研究しているので、諸外国にある博士号と医師免許を取得できるMD-PhDコースを模したものだった。

 課程博士と論文博士は区別される。博士号の番号に甲とつくのが課程博士、乙とつくのが論文博士だ。吉野さんは乙第9021号なので論文博士と分かる。

論文博士を廃止したい文科省

 吉野さんも取得された論文博士は、企業研究者のキャリアパスの一つだった。

 工学部などでは、大学院修士課程修了後に民間企業に入社するのが一般的で、博士課程に進学する学生は多くなかった。

 企業で研究部門に配属され、研究開発を行う。研究がまとまれば共同研究などで関係がある大学に論文博士を申請する。吉野さんのように、企業人生の集大成のような形で論文博士を取得する人もいる。

 社員は早くから給料をもらい研究開発に取り組める。企業も事情の分かった社員が博士号を取得できるので都合がよい。このようにある種のウインウインの関係があったのだ。

 ところが、吉野さんが博士号を取得した2005年、文部科学省の中央教育審議会(中教審)は論文博士が望ましくないという旨の答申を公表する。

論文博士の在り方の検討に当たっては,相当の研究経験を有している社会人等に対し,その求めに応じて大学院が研究指導を行う仕組みの充実などを併せて検討することが適当である。

出典:新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-答申

 なぜ論文博士は好ましくないのか。文科省は以下のような意見があることを挙げている。

  1. 学位は,大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として大学が授与するものという原則が国際的にも定着していること
  2. 国際的な大学間の競争と協働が進展し,学生や教員の交流や大学間の連携など,国際的な規模での活動が活発化していく中にあって,今後,制度面を含め我が国の学位の国際的な通用性,信頼性を確保していくことが極めて重要となってきていること

 論文博士の制度は日本独自のものであり、国際的に通用しないからだという。

 また、企業が社員を論文博士にしてしまうため、課程博士を採用したがらず、課程博士号取得者の就職難という問題を引き起こしているという指摘もある。

 ただ、文科省も論文博士の意義は認めている。

一方,この仕組みにより,大学以外の場で自立して研究活動等を行うに足る研究能力とその基礎となる豊かな学識を培い,博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認められる者に対して博士の学位を授与することは,生涯学習体系への移行を図るという観点などから一定の意義があるとも考えられる。また,博士学位授与数に占める論文博士の割合は減少傾向にあるものの,他方で,企業,公的研究機関の研究所等で相当の研究経験を積み,その研究成果を基に,博士の学位を取得したいと希望する者もいまだ多いことや,論文博士と課程博士が並存してきた経緯を考慮することも必要である。 

出典:中教審答申

 この答申公表から14年が経過したが、今も論文博士号の授与は多くの大学で行われている。

論文博士の生産性

 論文博士はなくすべきか…。

 大西 宏一郎氏と長岡 貞男氏は以下のような研究成果を公表した。

課程博士と論文博士号取得者と比較した場合、課程博士の出身者の発明生産性は年間で35%程度、ライフサイクル全体では38%程度高いという結果が示された。ただし、この差は統計的に有意ではなく、論文博士と課程博士では同程度の生産性を持つといえる。

出典:企業内研究者のライフサイクル発明生産性

 課程博士と論文博士に生産性の違いはないという。この成果を踏まえ、大西氏は以下のように述べる。

論文博士については、「企業から寄付を受けた大学が、その見返りに企業内の研究者に博士号を与えているだけでないか」といった見方があり、その増加を抑えて課程博士の育成に力を入れるべきだとの声も出ていますが、本研究から得られた知見から考えれば、論文博士を政策的に減らすことは合理的ではありません。

出典:Research Digest (DPワンポイント解説)  企業内研究者のライフサイクル発明生産性

 とはいえ、企業も吉野さんがやられたような、ノーベル賞に値する長期的研究を行う余裕がなくなりつつある。

 研究→開発→生産→販売のリニアモデルが通用せず、自前で研究開発を行うことが難しくなっているのも理由と言える。

 今後吉野さんや島津製作所の田中耕一さんのような、大学院博士課程を経験しない企業研究者のノーベル賞受賞は減っていく可能性がある。

 論文博士がどうなるかは、課程博士号取得者のキャリアや今後の日本の研究開発の在り方も関わる大きな問題だと言えるだろう。


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