政策のプロである官僚を、政治家が政権運営から遠ざけたり、自らの下働きのように扱ったりしたら、官僚は誇りを失ってしまうだろう。
そうした姿を見て、若者が官僚を志望しなくなるのも無理はない。誤った政治主導を見直していく必要がある。
人事院の有識者会議「人事行政諮問会議」(座長・森田朗東大名誉教授)が、国家公務員の人材確保に関する中間報告をまとめた。報酬の引き上げや、長時間労働の是正が不可欠だと提言した。
キャリアと呼ばれる総合職の採用試験申込者数は、この10年で3割近く減少した。採用から10年未満の若手の退職者数は、2018年度に100人を超え、その後も高い水準にあるという。
官僚の人材の先細りは政策の立案能力や推進力を低下させ、日本の衰退を招きかねない。
政府は昨年度、国家公務員の初任給を1万円超引き上げた。新しい公務員宿舎を東京都や岡山県などに建設することも決めた。
大手の民間企業に比べ、官僚の待遇は決して良いとは言えない。処遇の改善で若者の関心を 惹(ひ) く狙いがあるようだが、公務員離れはそれだけが原因ではあるまい。
民主党政権は自民党政治を「官僚内閣制」と批判し、官僚の国会答弁を制限したほか、閣僚や副大臣など政治家だけで政策を決定しようとしたが、空回りした。
その後、政権に返り咲いた自民党は、官邸主導の体制を築く過程で、官僚が官邸幹部を 忖度(そんたく) するようになったとの批判を浴びた。
1990年代の政治改革で小選挙区制が導入され、政権交代の緊張感が生まれた一方、政治家が小粒になったとの指摘は多い。
国会審議では、野党が政府の揚げ足取りや答弁ミスの追及に力を入れるようになった。その結果、若手官僚らはミスの点検などに深夜・早朝まで追われている。
政治主導の下でも、官僚の知見を生かしつつ、政策を決定していく体制を整えることが重要だ。官僚が、国を支えているという使命感を持てるようにしたい。
官僚自身の責任も重い。幹部官僚が公文書を改ざんするなどの不祥事で、自らのイメージを 貶(おとし) めた側面は否定できない。
10年前に創設された内閣人事局は、幹部官僚の人事を官邸が握ることで国益を重視した人材を登用しようとしたが、官邸の意向に沿わない官僚がやる気を失った、という見方がある。内閣人事局のあり方を点検してはどうか。