安倍晋三・元首相銃撃事件で、奈良地検が実施していた山上徹也容疑者(42)(殺人と銃刀法違反の容疑で送検)の鑑定留置が10日、終了した。関係者によると、山上容疑者は約170日間に及ぶ鑑定留置の期間中、専門医の面談に素直に応じる一方、同じ質問が繰り返されることに「うんざりしている」と漏らすこともあったという。
昨年7月25日に始まった山上容疑者の鑑定留置は当初、11月29日までの予定だった。専門医による面談は週1回程度のペースで行われていたが、鑑定留置の期限が1月10日になった11月中旬以降は週2回ほどに増えたという。山上容疑者は奈良県警の逮捕後の調べに対し、母親が多額の献金をした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を恨んでいたと供述している。専門医との面談では、旧統一教会について繰り返し質問され、接見に訪れた親族に「うんざりしている」と述べたこともあった。
接見は一部の親族や弁護人に限って認められていた。山上容疑者は関係者に対し、事件時の思いについても、より克明に語るようになっているという。鑑定留置されていた大阪拘置所では、事件を報じる新聞や雑誌を丹念に読み込み、旧統一教会を巡る国の動きにも関心を示していた。
山上容疑者の伯父(77)によると、親族以外にも本や衣類を差し入れる人が多数おり、届いた現金は100万円を超えたという。山上容疑者は宅地建物取引士など複数の資格を持っており、実用英語技能検定(英検)1級の資料や英和辞典の差し入れもあった。伯父は親族を通じて山上容疑者に英検1級の資格取得を勧めており、「だいぶ先の話になるだろうが、勉強して将来に役立ててほしい」と話す。「事件への思いは語りたくない」とした上で、「裁判所で事実に基づき、適切に判断してほしい」と語った。
鑑定留置の期限を巡っては、二転三転した。地検は11月17日、期間の延長を奈良簡裁に請求し、今年2月6日まで認められた。これに対し、山上容疑者の弁護人が不服を申し立て、奈良地裁は1月10日に短縮する決定を出した。
山上容疑者の弁護人によると、地裁は期間短縮の決定書で「延長によって容疑者に生じる不利益を考慮すべきだ」とした一方、「容疑者の成育歴や生活状況を的確に判断するためには相当程度の期間も必要」とした。地検は12月にも期間の再延長を求め、簡裁がいったん約2週間の延長を認めたが、弁護人の不服申し立てを受けた地裁が取り消していた。
精神鑑定の経験が豊富な高岡健・岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター顧問(精神病理学)は、山上容疑者について「報道で言動を見聞きする限り、物事をよく考え、理解力が高いのではないか」と指摘。専門医との面談で「(同じことを聞かれて)うんざりしている」と漏らしたことに対しては「大事なことは日にちを置いて聞き、同じ答えが返ってくるのか確認することはある」と述べた。
その上で、約5か月半に及んだ鑑定留置について、「社会で注目を集めた事件で、専門医は容疑者の精神障害の有無、事件への影響を分析するため、成育歴や家庭環境を丁寧に、慎重に聞き取っていたのだろう」と話した。