「日本社会がジェンダー平等を追求するなら」 原武史さんが指摘する皇室のあり方と女性〈AERA〉

天皇、皇后両陛下は愛子さまらと訪れた人々に応えた。女性皇族のティアラ着用は、コロナ禍以降は取りやめている
1月2日、皇居で3年ぶりに新年の一般参賀が行われた。愛子さまは初めての参加となった。政治学者の原武史さんに話を聞いた。AERA2023年1月16日号から。 【写真】政治学者の原武史さん
* * * 令和へと代替わりしてすぐ、コロナ禍になりました。国民の不安が高まる中、私は天皇が何らかの「お言葉」を発表するのではないかと注目していました。実際に英国のエリザベス女王は、2020年4月にビデオメッセージを発表しました。日本でも、11年の東日本大震災の直後には、上皇(当時・明仁天皇)が約6分のビデオメッセージを発表していますので、その可能性は十分あると考えていました。
けれど、結局何もないまま、時が過ぎました。20年1月以降は天皇、皇后の都外への外出はほとんどなくなり、「四大行幸啓」と言われる地方定例訪問も全てオンラインに。大規模災害時の被災地訪問もありません。国民と直接触れ合えない中で、令和皇室の存在感を高めるためには儀礼的な言葉ではない、天皇の気持ちが直接伝わるような「お言葉」があってもよかったと思います。
一方で、19年5月、米国のトランプ大統領(当時)夫妻が来日した際、天皇、皇后ともに通訳なしで会話していたことは、平成との違いを感じました。昨年9月にはエリザベス女王の国葬に参列するため、代替わり後初となる天皇・皇后の海外訪問が実現しています。
上皇夫妻は昭和から平成にかけて全都道府県を訪問するなど国内を回ることを重視していましたが、令和の天皇・皇后は、得意の英語力を駆使し、国境には必ずしもこだわらない印象があります。たとえ外国を訪れなくても、外国人が多く暮らす地方に目を向けてゆくかもしれません。
23年は、今のところ予定されている大きな皇室行事はありませんが、大学4年生になる愛子内親王(21)の露出度は高まると思います。皇后は外出の機会が増えたとはいえ、まだまだ体調が不安定なこともありますので、成年皇族である愛子内親王が公務を代行する機会もあるでしょう。
■平等を追求するのなら 愛子内親王の好感度があがると、女性天皇論が再び盛り上がる可能性があります。そもそも、女性・女系天皇については、各種世論調査で国民の7割以上が賛成しているという結果が出ていて、潜在的な待望論はとても大きい。また、世界を見渡しても、君主制が残っている国で女性が君主になれない国は、イスラム圏をのぞいてほとんどありません。ここ数年、日本で盛り上がっているジェンダー平等の機運と結びつくと、明治時代に生まれた「万世一系」イデオロギーに基づく男系男子にこだわる考え方は、ますます支持を得にくくなります。
皇后の適応障害が20年近くも治らないことに加えて、一昨年、皇室を出て、海外に拠点を移した小室眞子さんの毅然とした会見からも、日本の皇室は女性が生きづらい場所であることが露呈しています。日本社会がジェンダー平等を追求するのであれば、皇室のあり方についての議論は避けては通れません。 もし皇室の存在がそれを阻む障壁になっていると見られれば、皇室制度そのものをなくした方がよいという意見も出てくるでしょう。天皇と皇后は、新年のビデオメッセージに2人で出演するなど、平成よりも天皇と皇后が対等な姿勢を見せようとしています。令和の皇室は、ジェンダー平等を積極的に進めていることをさらにアピールする必要があるように思います。
(構成/編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年1月16日号より抜粋