2022年7月8日、安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから2年が経った。日本の歴史上に残る大事件にもかかわらず、すでに風化しつつ雰囲気もある中、「安倍晋三元首相銃撃事件」を題材にしたフィクション『暗殺』(幻冬舎、6月20日発売)が発売後から増刷(7月17日時点で8刷16万5000部)を重ねており、話題を呼んでいる。
作者は、戦後史最大のミステリーともいわれる「下山事件」を追い続ける作家・柴田哲孝氏。柴田氏に今作品を書いた動機や安倍晋三元首相銃撃事件への思いについて、インタビューを行なった。
「これは絶対何か裏がある」
安倍晋三元首相が銃撃されたのは、参院選期間中の2022年7月8日11時30分ごろ。奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅北口付近で街頭演説中のことだった。
内閣総理大臣経験者が暗殺されたのは、1936年に起きた「二・二六事件」の高橋是清、斎藤実以来。今回の事件は、日本国内のみならず世界中に衝撃を与え、2022年9月27日に日本武道館で執り行われた安倍元首相の国葬儀には、世界各国から要人が参列した。
安倍元首相銃撃事件直後の心境を、柴田氏が振り返る。
「この事件が起きた瞬間、何かおかしいと思いませんでしたか? 直感的に『こんな事件が起こるわけがない』というのは、私だけでなく、多くのジャーナリストも裏では『これは絶対何か裏がある』と主張しています。
歴代最長政権を築いた安倍さんが、こんな警備の甘い場所で暗殺されたのはあまりにも不自然。それでおかしいと思っていたところ、様々な筋から情報が入り、今回筆を執ることにしたのです」
“偶然”がいくつも重なれば必然に
事件翌日に柴田氏は、知人の右翼団体関係者から「山上単独犯」を否定するようなメールや、ある警察庁OBからも「警察は何か隠している」といった連絡を受けたという。
また、立憲民主党の関係者によると、同年(2022年)4月に泉健太代表が今回の事件が起きた同じ場所で演説したいと申し出たところ、奈良県警から「後方の警備が難しい」と指摘され、断念していたことも判明している。
事件当初から「安倍元首相に当たった銃弾2発のうち致命傷を与えた1発が紛失した」「奈良県警は事件の5日後に現場検証を行なった」などといった、”偶然”や“警察の体たらく”という言葉では到底片付けられないような不審な点が指摘されていた。
「“偶然”というのは1つだけなら偶然だけど、2つあればその偶然を怪しむべき。3つ重なれば偶然ではなく必然ですよ。今回の事件は偶然がいくつも重なっています」(柴田氏)
さらに不可解な事例として、事件当日に安倍元首相の救命にあたった奈良県立医科大学附属病院の救命医の会見内容と、奈良県警の司法解剖の結果に食い違いがみられたことだ。
救命医と司法解剖の結果に大きな齟齬
安倍元首相の搬送先で治療にあたった奈良県立医科大学附属病院の福島英賢教授は、事件当日の夕方に行われた会見で「首2ヵ所(正面と少し右)に銃創」「心臓には弾丸による大きな穴」「死因は心臓及び大血管の損傷による心肺停止」などと説明。
一方、事件翌日に公表された奈良県警の司法解剖の結果は「首の右側1ヵ所と左上腕部1ヵ所に銃創」「心臓には銃撃による穴はない」「死因は左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷に基づく失血死」とのことだった。
病院側と警察側で、「首への銃創の数」や「銃弾による心臓の傷の有無」など、最も重要なはずの致命傷の部分で齟齬が生じている。柴田氏が語る。
「治療にあたった救命医の説明によれば、『右側頸部から心臓方向に弾丸が向かい、心臓の壁に大きな穴を開けて大量出血につながった』とのことですが、高さ数十センチの壇上に立つ安倍元首相の背後から低位置から撃たれたのであれば、角度的におかしい。上から下に撃たなければ、右側頸部から心臓の弾道にはならないからです。
常識的に誰でも疑問に思う点からも、私は『別の何者かが上から安倍元首相を狙撃したのではないか』という仮説を立てました」