歌会始、2カ月遅れで開催 両陛下、コロナ収束を祈る
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皇室の恒例行事「歌会始の儀」が26日、皇居・宮殿「松の間」で開かれた。1月に予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2カ月余り遅れての開催となった。天皇、皇后両陛下はコロナ禍の収束を願う気持ちを歌に込めた。
【写真】「歌会始の儀」に臨む天皇、皇后両陛下と皇族方=2021年3月26日午前10時30分、皇居・宮殿「松の間」、代表撮影
今年のお題は「実」。両陛下や皇族方に加え、国内外から寄せられた1万3657首から選ばれた入選者10人、選者らの歌が独特の節回しで披露された。
宮内庁によると、天皇陛下は、人々の願いと、人々が試練を乗り越えようとする努力が実を結び、感染症が収束するよう願う気持ちを歌に込めた。皇后雅子さまは昨年5月、お住まいのある赤坂御用地内を散歩中、梅の青々とした実を目にした際の気持ちを詠んだ。感染症の拡大で日常が大きく変わっても、変わらない自然の営みの力を感慨深く思ったという。
秋篠宮さまは、夏の暑い日に控えめに咲く稲の花を見て、秋に黄金色の稲穂が豊かに実ることを願う気持ちを歌にした。紀子さまは、竹籠の中の熟れたカリンの実の香りに安らぎを感じ、身近な自然をありがたく思った気持ちを詠んだ。
感染症については、寛仁親王妃信子さまや高円宮家の長女承子さまも歌にした。信子さまは、医療現場や保健所など、コロナ禍の最前線で働く人たちへの尊敬と感謝の念を込め、コロナ禍の終息を祈って詠んだ。承子さまは、感染症による日々の不便はたくさんあるものの、オンラインへの移行が進み、国際会議への出席や遠方の友人らとの交流など、時間的、距離的な制約なく集える実りもあったことを歌にした。
儀式にも感染症が影響した。松の間にモニターが設置され、現場に来ることができない入選者がオンラインで出席した。また、感染防止策として、例年100人ほど出席していた陪聴者は3人のみに絞られた。歌を紹介する披講諸役の席にはアクリル板が置かれ、大半がフェースシールドかマスクを着けた。宮内庁によると、歌を紹介する人は事前にPCR検査も受けたという。(杉浦達朗、長谷文)
天皇、皇后両陛下や皇族方の歌は次の通り。
天皇陛下 人々の願ひと努力が実を結び平らけき世の到るを祈る
皇后さま 感染の収まりゆくをひた願ひ出で立つ園に梅の実あをし
秋篠宮さま 夏の日に咲き広ごれる稲の花実りの秋へと明るみてくる
秋篠宮妃紀子さま 竹籠に熟るる黄色の花梨(くわりん)の実あまき香りは身に沁みとほる
秋篠宮家長女眞子さま 烏瓜(からすうり)その実は冴ゆる朱の色に染まりてゆけり深まる秋に
秋篠宮家次女佳子さま 鈴懸(すずかけ)の木から落ちにし実を割りてふはふは綿毛を空へと飛ばす
常陸宮妃華子さま 野鳥くる実のなる木々に植ゑかへて君は若かる庭師と語る
寛仁親王妃信子さま 実りある日のくるためにながさるる汗は力となるを信ずる
寛仁親王長女彬子さま 地図帳にあの日見つけし茶畑の不思議な点は茶の実のかたち
高円宮妃久子さま 戸隠の森にはびこる蔓柾(つるまさき)赤き実を食(は)むは眉茶鶫(まみちやじない)か
高円宮家長女承子さま 自室より画面越しにて繫がりて旅せぬ集ひも実現したる
■来年の題は… 宮内庁は、来年の歌会始の題を「窓」とする募集要領を26日付で発表した。「窓」の文字が詠み込まれていればよく、「窓辺」「車窓」「同窓」のような熟語にしてもよい。
応募できる短歌は1人1首で、未発表のものに限られる。受け付けは郵送のみで、締め切りは9月30日(当日消印有効)。あて先は「〒100・8111 宮内庁」とし、封筒に「詠進歌」と書き添える。詳細は同庁ホームページ(https://www.kunaicho.go.jp/)。
「歌会始の儀」 コロナウイルス感染対策行って2か月遅れで開催
歌会始「待ち望んだ」 入選者、喜びと安堵
皇居で26日行われた「歌会始の儀」に出席した入選者が同日午後、宮内庁で記者会見し、「夢のような心地」「一生の宝」などと笑顔で語った。 新型コロナウイルスの感染拡大で約2カ月延期されての実施に安堵(あんど)の声も聞かれた。 「ものすごく感動した」と笑顔をのぞかせた広島県三次市の山本美和さん(53)は、勤務先の郵便局で感染対策をしながらの窓口業務を歌にした。懇談の際、天皇、皇后両陛下から「仕事が大変でしたね」とねぎらいの言葉があったという。 今回の入選者で最年少だった新潟市の高校2年藤井大豊さん(17)は「冷や汗が出るほど緊張した」と振り返った。約2カ月遅れの開催に、「いつになるのか待ち望んでいたので、本当にうれしい」と話した。 横浜市の主婦松山紀子さん(58)は「選ばれた(昨年)12月からコロナにかかってはいけないとプレッシャーだった。ほっとしている」と胸をなで下ろした。 オンラインで儀式に参加した福井県小浜市の小浜町並み保存資料館ガイド杉崎康代さん(77)は、終了後の電話取材に「その場にいるのと同じ緊張や感動があった」と興奮冷めやらぬ様子。両陛下とモニター越しに懇談し、地元の神社を訪れたことがあるという天皇陛下から「きれいな所ですね」と声を掛けられたという。