或る夜の事。
狐は先輩と一緒に或るパブリック・ハウスのカウンター席に腰をかけて、絶えずミルクを舐めてゐた。
狐は余り口をきかなかつた。
しかし先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。
「君はお茶を濁すという言葉を知つているかね?」
知つていますよ。
「今回はネタが無いのだ。故に御茶を濁さななければならない。我等は其のような状況なのだ」
メタ発言はやめてください。
「正確にはネタが無い状態で迂闊にもお座敷に上がってしまったのだ。愚か。愚かなことよ。ネタが無いならばお座敷に上がらねばよい。しかしネタが無いのにお座敷に上がってしまったのだ。お座敷に上がったのならばネタが無くとも、The Show Must Go On。ネタが無いまま即興で演じなければならない。故に御茶を濁さなければならない。我等は其のような状況なのだ」
だからメタ発言はやめてください。皆様が吃驚しますよ。
「仕方がないではないか。ネタが無いのだ。ネタが無いままネタを何とか捻り出そうとしているのだ。其の様を御覧いただくのも一興ではないか。御茶を濁すというのはどのような事なのか御覧いただくのも一興ではないか」
だからそんな裏事情は隠して何とかネタを捻り出して知らん顔をしているのがエレガントというものです。メタ発言はやめてください。
「ふむ」
続けてください。The Show Must Go Onです。
「ふむ。ところで君、知つているかね? 頭が良いふりをするのは簡単だ。しかし莫迦になるのは難しい」
先輩は頬杖をした儘、極めて無造作に私に述べた。
「この意味が君に分かるかな?」
先輩は割賦を掲げて中の火酒を見詰めた。
私はあんぽんたんなので分かりません。と狐は恍けた。
狐は先輩と一緒に或るパブリック・ハウスのカウンター席に腰をかけて、絶えずミルクを舐めてゐた。
狐は余り口をきかなかつた。
しかし先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。
「君はお茶を濁すという言葉を知つているかね?」
知つていますよ。
「今回はネタが無いのだ。故に御茶を濁さななければならない。我等は其のような状況なのだ」
メタ発言はやめてください。
「正確にはネタが無い状態で迂闊にもお座敷に上がってしまったのだ。愚か。愚かなことよ。ネタが無いならばお座敷に上がらねばよい。しかしネタが無いのにお座敷に上がってしまったのだ。お座敷に上がったのならばネタが無くとも、The Show Must Go On。ネタが無いまま即興で演じなければならない。故に御茶を濁さなければならない。我等は其のような状況なのだ」
だからメタ発言はやめてください。皆様が吃驚しますよ。
「仕方がないではないか。ネタが無いのだ。ネタが無いままネタを何とか捻り出そうとしているのだ。其の様を御覧いただくのも一興ではないか。御茶を濁すというのはどのような事なのか御覧いただくのも一興ではないか」
だからそんな裏事情は隠して何とかネタを捻り出して知らん顔をしているのがエレガントというものです。メタ発言はやめてください。
「ふむ」
続けてください。The Show Must Go Onです。
「ふむ。ところで君、知つているかね? 頭が良いふりをするのは簡単だ。しかし莫迦になるのは難しい」
先輩は頬杖をした儘、極めて無造作に私に述べた。
「この意味が君に分かるかな?」
先輩は割賦を掲げて中の火酒を見詰めた。
私はあんぽんたんなので分かりません。と狐は恍けた。
意味は分かるがここで正解を述べればその回答は正解ではなくなる。狐が考えている正解が本当の正解であるならば、そうなってしまう……。
先輩はお喋りを止めて考え込んだ。
狐の言葉は先輩の心を知らない世界へ神々に近い世界へと解放したのかもしれない。
狐の言葉は先輩の心を知らない世界へ神々に近い世界へと解放したのかもしれない。
私の切り返しの意味を先輩は理解してくれただろうか? とどきどきしながら、狐はラム酒を注文し、割賦の中でミルクと混ぜ合わせて、それを舐めた。
先輩は言つた。
「ふむ。それでよい」
先輩は言つた。
「ふむ。それでよい」
狐は何か痛みを感じた。しかし、同時に又歓びも感じた。
人の考えとは、様々なものであるな。よく分からない。だからこそ面白いものだ。
そして御茶は濁せたのだろうか? 狐は疑問に感じながら、ラム酒入りのミルクを舐め続けた。
其のパブリック・ハウスは極小さかつた。
しかしパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます