以下の文は、「現代ビジネス」の崔 碩栄氏の『韓国でコロナ検査「世界最大級」のウラで医師が「動員」されていた! 徴兵制という名の「犠牲」』と題した記事の転載であります。
『韓国でコロナ検査「世界最大級」のウラで医師が「動員」されていた! 徴兵制という名の「犠牲」』
世界的に突出した「韓国のコロナ検査」のウラで…
新型コロナウイルスの流行で世界中がパニック状態に陥っている。
この状況を伝える日本のテレビニュースを見ていると、よく耳に入ってくる言葉がある。
「韓国のように対応すべきだ」「韓国を見てください」といった言葉だ。
これらは韓国の行っている検査数が世界的に見ても突出した「数字」であることを念頭に置いての言葉だ。
3月23日現在、韓国のコロナ累計検査件数は33万件で日本の1万8千件、イタリアの23万件に比べても圧倒的な検査件数であることに異論はないだろう。
韓国の人口が日本の半分以下の5千万人であることを考えれば、その差はより歴然としたものにみえてくる。
日本のテレビで韓国の例を取り上げているのは「日本も韓国のように検査対象(件数)を増やすべきだ」という主張だ。
検査対象を増やせば、より多くの感染者を見つけ出すことができ、そうすればより迅速な対応が可能になるはずだ、という主張だ。
一部では「症状が出ている患者を中心に検査するほうが効率的」という意見も聞かれるが、韓国が他国に比べ驚くべきスピードで検査をこなしているということだけは事実で、日本ではそこに注目しているコメンテーターが多数派であるように見える。
韓国がこのように圧倒的なスピードで検査を行うことが出来ている大きな理由の一つは政府が診断キットを「緊急使用承認」という形でいち早く許可したためだ。
これは、まだ許可を受けていなかった診断製品について食品医薬安全処長が一時的に製造、販売、使用することを許可するという制度で2015年のMERS流行を受けて導入された制度だ。
つまり、通常なら検証と許可にかなり時間がかかるプロセスを省略し、緊急時にそのまま使用することを許可する、という制度だ。
コロナ対応を支える「徴兵制」
コロナと徴兵制
実際、韓国産診断キットは今のところは韓国内でのみ使用されている。
客観的な検証作業が充分に行われてないので、逆に韓国政府の「信頼性に疑うところは無い」と繰り返している言葉に不安を覚える人たちも出てきているというのも事実だ。
そして、見落としてはならないのが、 韓国の迅速なコロナ対応を支えている重要なもう一つの要素、「徴兵制」だ。
韓国で医科大学を卒業し、医師の国家試験に合格した男性が兵役でその義務を果たすとき、その方法は3パターン考えられる。
一つ目は一般兵として2年間服務するというもの、2つ目は軍医官(将校)として3年間服務するというもの、3つ目は「公衆保健医(略称 公保医)」として3年間服務するというものだ。
一般兵として服務すれば、服務期間は短いが給与はほぼ無いようなもので、訓練と内務生活は相当に厳しいという短所がある。
これに比べると、軍医官や公保医は服務期間は長くなるが、専門分野の経験を積むことになり、また給与も軍将校と同水準程度受け取れる。
公保医というのは軍医官の「民間バージョン」とでも言うようなもので軍隊に入る代わりに医療施設のない山間地域や離島、あるいは刑務所などで医療活動に従事する制度だ。
給与は月25~40万円程度で同年代の軍将校と同じ程度。
一般の医者に比べれば薄給ではあるが、一般兵士よりは待遇もよく、自由もある良い条件だ。
それゆえに医科大学を卒業した男性の殆どは徴兵に応じる際に軍医官や公保医を希望し、勤務する道を選ぶ。
「動員」された公保医たち
命令を拒否したら刑事処罰
とはいえ軍医官も公保医も、「軍役」という制度に縛られ、それぞれ軍人、公務員という身分で国家の命令に服従しなければならない身分だという絶対的な違いはある。
一般の医者には退職や廃業の自由があるが、軍医官や公保医にそれはない。
勤務地を離脱したり命令を拒否したら刑事処罰をうけることになる。
彼らの医療活動は国家から義務付けられた行為であるからだ。
今回のコロナ対応において、いの一番に「動員」されたのは公保医である。
2月末、全国の公保医の中から100名余りが韓国で最初に爆発的にコロナ患者を発生させた大邱、慶尚北道地域に第一陣として派遣した。
それは自発的な参加を募ったものではなく、国家による一律の指示、つまり拒否することのできない命令であった。
しかも宿泊先を自分で探して解決しなければならないという無謀な指示だったという。
その後も追加の人員を派遣したが、それでも人員不足は解決しきれなかった。
そこで政府は3月5日、新たに公保医となる予定の742名を早期任用し大邱に配置すると発表した。
公保医とはいえ戦時には軍医官として活動することを前提としているため、通常であれば基礎的な軍事教育を4週間受けたのちの任用となるのだが、今は新型コロナ増加で緊急状態であるからと、軍事教育を省略し緊急派遣するというものだ。
この措置により大邱地域に派遣された公保医は総計1千名以上となった。
これを日本の人口に換算してみると2千名以上の医師を特定地域に検査、診療要員として一気に動員したということになる。
徴兵制のない日本においてこのような対応が可能だろうか?
国家の指示と統制
月給4万円で「マスク作業」に動員される現役軍人
検査数が多いというのはつまり、診断キットの数だけをたくさん準備できたということではない。
それを運営、管理する「医療陣」と彼らの献身が無ければ不可能だ。
これは韓国独自のいくつかの要素が重なって可能になっているということができる。
検査をする医師だけの話ではない。
検査をする医師だけの話ではない。
韓国では今、マスクが国民に行き渡るよう準配給制のような状態になっているが、政府が国民に配給するマスクを2枚ずつ小分けにして包装する作業が必要だ。
機械の数が追いつかず手作業でしなければならないのだが、圧倒的に足りない人手を埋めるために動員されているのも現役軍人たちだ。
これを民間に任せようとしたら人員の募集、移動、宿泊施設の準備など、とんでもない時間と経費、そして大きな人件費が発生するがすでに徴用制によって動員されている軍人に指示すれば新たな費用はほとんど発生せずに解決できるのだ。
日本の報道番組では「韓国のようにすればいい」という言葉をあまりにも簡単に主張する人たちがいるが、個人の自由を標榜する日本において、国家の指示と統制によって一律的に労働力を動員するのはほとんど不可能と言っていいだろう。
月給4万円でマスクの小分け作業に動員される現役軍人もそうだが、医師のような高給人材であればなおさらだ。
動員された人たちの犠牲
なぜ日本では同じようにできないのか…?
もちろん韓国でも、ボランティアで自主的に参加し献身する医師や看護師たちも少なくない。
だが、元々の勤務地で医療の空白が生まれないように配慮しつつ、自分の元々の患者と報酬を放棄してボランティアに向かえる医師や看護師の数には限界があるはずだ。
隣の芝生は青く見える、ということわざがある。
日本から見たら韓国のコロナ検査などの「迅速な対応」は効率的で素晴らしい対応であるかのように見えるかもしれない。
そして、日本は何故同じようにできないのかと文句の一つも言いたくなるのかもしれない。
だが、同じように、と主張するのであれば、韓国の「迅速な対応」の裏には「徴兵制」という名の「国家による強制性を伴う動員」をされた人たちに「犠牲」が隠れているという事実と正面から向き合わなければならないだろう。
転載終わり。
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