狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

『ハーモニー』 /伊藤計劃

2020年05月05日 17時48分53秒 | 小説・本に関する日記
 昨日の夜は、伊藤計劃の小説『ハーモニー』を読み返していました。

 高度な医療経済社会が築かれた超管理社会の未来。
 人はナノテクノロジーで完璧に管理されていて病気は存在せず老いも存在しない。
 しかしそれ故にプライバシーも存在しない。
 全てが管理された世界。
 そんな世界で、同時刻に互いになんの関係もない6582人の人間が自殺を計る事件が起こる。
 WHOの監察官・霧慧トァンはその事件の背後にかつて自殺したはずの親友の影を見る……。
 人類の最終局面に現れるユートピアとは?

 この作品は、第40回星雲賞(日本長編部門)と第30回日本SF大賞を受賞しています。




 争いの無い世界を出現させる為に、全人類を最適化された行動をとる感情を持たない意識の無い状態にする。
 人が人為的に進化するならばその方向になるのかもしれません……。しかし……それは人間と言えるのでしょうか?

 作家・伊藤計劃が死を見詰めざるを得なくて、理想の高度医療社会を幻視して、でもそんな理想と思える社会が本当に出来たとしたならと考えて……。
 目の前に迫る現実を見詰めざるを得なかったので綺麗事のその向こうにあるものを見詰めた結果……。
 壮絶で美しく悲しく怖ろしい超傑作が生まれました。



 意識とは何か?
 魂とは? 進化とは? ユートピアとは?
 そんなお話です。
 全てがフラットな世界に向かう美しい恐怖。

 ラストは意外でありました。
 無に還っていく怖ろしく寂しく静かで美しいラストであります。
 う~む。そんなラストにしちゃうんだ。ってラストでありました。
 もしかすると涅槃寂静と呼ばれる状態は或いは彼岸とは、この物語の最後に現れてくる世界のようなものかもしれない。

 とても面白いです!
 お勧めであります!



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