パソコン上達日記2

日々の雑感を戯れに綴ります

池井戸潤「不祥事」

2017-03-23 13:51:21 | 読書感想

「不祥事」

銀行を舞台にしたドラマ「花咲舞が黙ってない」の原作小説本。ドラマは見ていないが、面白いというのは、予想出来た。もし再放送されたらみたいなぁと原作を読んで思ったくらい良かった。

池井戸氏は経済小説?会社を舞台とした小説が何作品もドラマ化(半沢直樹シリーズや下町ロケット)されているが、私はこの本が初めて。

感想を書くと、スッキリしていて面白いなと思ったけどもう少し深い部分があってもいいのでは?と。ただ好みの問題で、ライトな感覚で気軽に読める1冊という見方もできるかな。銀行員と呼ばれる人達の仕事ぶりが垣間見るように読めるし、どれもミステリとして小気味いい結末。いくらでも難しく書ける銀行という舞台設定で、物語に合わせて無駄な部分をそぎ落とし、スッキリ簡潔に描くほうが難しいかもしれない。センスがいいなと思う。

この本にはノベルズ版あとがきが付いている。これを読むとこの作家の初期作品と分かったので、現在の作風とは違うのかな~と思った。最近の作品を読んでみたいなと。

ところで一番面白かったのは、私は実をいうと「あとがき」なのだ。この作品を批評する読者の意見として「経験と違う」とか「こんな部署はない」とかそういったものがあったらしい。それに池井戸氏が答えている。

以下この「あとがき」から抜粋する。「不祥事」 池井戸潤 実業之日本社から引用 ノベルズ版あとがきから


 

(略)

小説を小説として単純に楽しめない読者が少なからず存在することだ。

(略)

そして、もっとも始末に負えないのは、自分達がエリートだと信じ切っている選民思想の銀行員読者である。

鼻持ちならないエリート意識で、「いまの銀行はこんなふうになっていない」、などと上から目線でのたまう

そんなことはわかっている。

(略)

女だてらに啖呵を切って何が悪い、こういう臨店チームをもつ銀行があったっていいじゃないかー。

だから、世の中は面白いんじゃないか。小説は楽しいんじゃないか。

・・・・ (抜粋終わり)


この単純に楽しめない読者は、おそらく「池井戸氏に的外れな批評をすること」が「楽しい」のだろう。屈折した楽しみ方でもあるが、小説の楽しみ方は人それぞれなので仕方ないのかもしれない。作家と読者の距離がSNSで近くなったせいもあるかもしれない。(実際近くはないけどそう錯覚させる)ただ池井戸氏がここまではっきり書くのは、かなり頭にきたのかな(笑)と思った。

エンタティメントを純粋に楽しみたい、そういう余裕のある人だけが池井戸小説を読むべきですね。

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「楽園」 もし家族が とんでもない、「ろくでなし」だったらどうしますか?

2017-02-10 21:46:33 | 読書感想

宮部みゆき氏が書く小説は面白いに決まっている。私にとって、面白さ保障つき安心して読める作家という感じ。これも上下巻700ページ以上ある作品だが、一気に読めてしまう。

でも評価するなら★が4つかな。模倣犯の様なピリッとした感じの硬質なほうが個人的な好みだから。この「楽園」は、全体的なトーンとしてとても優しい。刊行した当初から気になったけれど、サイコメトラーの少年「等」を登場させた部分、「好み」が分かれるところだろう。私は、「模倣犯」や「理由」といった世界感がすきなので、こういった少年を登場させた設定、どちらかというと好みではないけれど…ただ、それは決して面白くないという意味ではない。私の期待値に対して、この作品は期待値以上ではなかったというだけで、それでも十分なクオリティがある。これは「宮部みゆき」の他の作品群がどれも「面白いに決まっている」ために、期待値が高すぎることがあるかもしれない。この作品が無名の作家なら驚愕するほどの完成度だと思う。

トリッキーな完全犯罪型ミステリではなく、かなり文学的要素が濃い作品。またあとがきを読むと分かるが宮部みゆきという作家が 人としてとても優しい。これほど繊細な方が、ここまでしかもリアリティに満ちたあまりに残酷な物語を書くということ、まさに骨身を削るような作業ではないだろうか…。そう思うとよけいに小説にある一言 一言が印象深い。


 

小説世界だけでなく、現実的な問題としても家族が「いなくなったほうがいいくらいの、ろくでなし」だった場合。身内は、どうすればいいのか?という悲鳴のような嘆き悲しみ、苦しみが今もどこかにあるのだろうと感じさせる内容だった。

特に物語の結末部分 15歳の茜のとった行動、怪物となった茜がそれでも母親に甘え、そして母親がとった行動、泣けるほど臨場感がある、それまで茜という名前だけの存在で語られていた少女が、母親の告白でリアリティのある、しかも現実世界にも、どこかにおそらく存在しているだろう 誰かを想像させる部分は宮部みゆきという作家の筆力を思ってしまう。圧倒的で。

(欲を言えば、上巻での「等」がなぜ山荘での風景を描けたのか? という部分の「答え」が欲しかったなぁ(^_-)-☆直接的にこの物語の本題とは、無関係なので「答え」がなくても全く構わないのだけれど、。逆に私個人がそれほど模倣犯の事件とピースを忘れられないのかな。)

そして宮部みゆきの物語以上に、残酷でやるせない事件が現実として起こっている世界が、私が生きている世界でもある。


2017年1月にwaowaoでドラマ化されたらしいが、主人公は仲間由紀恵。ドラマ見たかったな。ドラマ化された宮部作品ではテレ東の「模倣犯」はかなり良かったので、またテレ東で同じキャスティング中谷美紀でドラマ化されればいいのにと思う。「模倣犯」も「楽園」も連続ドラマ化してもいいくらいの内容量だし、面白さ。

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「世の中に片付くものなんて殆どありゃしない」夏目漱石 「道草」より

2017-01-07 20:02:40 | 読書感想

夏目漱石「道草」 年末からお正月にかけて読んだので感想を。

今年は漱石を中心に読もうと思っている。恥ずかしながら、文芸作品は大人になってから、読んでいない。だが、私も人生半ばを過ぎたし(たぶんwww)夏目漱石という作家の作品群を本当の意味で味わえるかもしれない、そういう期待をもって読んだ。

夏目漱石という人は、作家というより哲学者で宗教的な、そんな境地にあった人のような気がする。何となく私はそういう感じがしていたけれど、では「道草」を読んでどうだったか。

「道草」は自伝的小説とある。小説の内容は、大学講師である健三の日常。…彼の義父・義母・兄・姉・細君の父親までがお金を借りに、彼の元に頻繁にやって来るようになる、健三の本音は、「お金を貸したくない」けれど、無下に断ることが出来ない、ウダウダ心の中で悩みながら、細君に嫌味を言われながら、自分もさしてお金が余っているわけでもないのに、結局お金を貸してしまう。そういう話なのだ。

こう書くと、物語としては派手さもない。事件らしい事件は「誰かが金を借りに来る」これだけ(笑)だが…


 

人の生活は意識の連続で成り立っている、色んな思いが頭をよぎる、けれどその思いや感情、意識というもの、心の動きを、動きとして捉えるより前に、次の考えや思いがすぐ頭をよぎる。

「道草」は、この健三の心・意識の連続の瞬間を両手でそっとすくって、竹細工のように編み込んでいったよう。簡潔で美しいけれど、この竹細工の中を覗くと、健三の現在・過去・未来時間を超えた彼の意識の連続が、無限に広がっている。その中の空気というのかなぁ、とても生々しい。湿ったような生あたたかい風、真冬を思わせる凍てつくような北風、やわらかい春のひだまりを感じる空気、その人間の生きている空気感、リアリズムをとても感じる。

あぁこれが夏目漱石なのかぁとひどく感心した。やっぱりお札になった人だけのことあるなと(笑)

夫婦・親子・男・女・色々な立場・関係から生じる個人の姿のネガティブな意識部分をここまで俯瞰(ふかん)した漱石は凄いですね。

とても面白い。「道草」の現代版というのかな、そういうものも、できそう。私は4コマ漫画のような、ああいったものを描かればいいのになと思った。この現代に通じるリアルさというのを、また別な表現で再現できるんじゃないかなと。


 

物語は地味に終わる。健三が養父と関係を断つということで、とりあえず一件落着する。

ラストの細君と健三は、とても印象に残る。「道草」新潮文庫から抜粋

「安心するかね」

「ええ、安心よ。すっかり片付いちゃったんですもの」

「まだ中々片付きゃしないよ」

「どうして」

「片付いたのは上部だけじゃないか。だから御前は形式張った女だというんだ」

細君の顔には不審と反抗の色が見えた。

「じゃあどうすれば本当に片付くんです」

「世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない。一遍起こったことは何時までも続くのさ。ただ色々な形に変わるから他人にも自分にも解らなくなるだけさの事さ」

健三の口調は吐き出すように苦々しかった。細君は黙って赤ん坊を抱き上げた。

「おお好い子だ好い子だ。御父様の仰る事は何だかちっとも分りゃしないわね」

細君はこう云い云い、幾度か赤い頬に接吻した。             (完)

 

私が現代国語の教師なら、こういう問題を出すでしょう。

何故作家は、『細君は黙って赤ん坊を抱きあげた』で、終わらせずに『おお好い子だ好い子だ』という細君の言葉と接吻する動作で終わらせたのか、それは小説世界にどういう効果をもたらしたのか、400字以内で述べなさい。

と。   そのくらい計算された文章で、素晴らしいなと思う。また別の作品を読んでみたい。

 

 

 

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「神の前に、神とともに、神なしで生きる」

2016-04-05 07:54:22 | 読書感想

「神の前に 神とともに、神なしで生きる」この言葉は、ある本のもくじの一つにある。

「認められぬ病 現代医療への根源的問い」 柳澤桂子 中公文庫より。

現代医療では、解決できない病に侵された科学者である柳沢氏の詳細な記録。

もくじの言葉は、この方の魂を感じられてとても印象に残った。

医療の中でたらい回しにされていく患者の悩み・苦しみは言葉ではとても言い尽くせないもの・・・。

神の前に 神とともに 神なしで生きるということばを、自分にも思う。

 

 

 

 

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有栖川有栖氏にお願い

2016-03-04 18:45:27 | 読書感想

私の大好きな火村&有栖シリーズ文庫化の最新作。京都に行った時読破したので感想を。

読み終わった時に、思ったことがある。

文庫版にも必ずある著者・有栖川有栖氏の解説を読むと『若さを物語に織り込むことで、作品集を淡く彩色した』感じと書いてあるように、4つの短編集は、世界の内側・外側から若さをテーマにしてある。

作中の探偵・火村も有栖も年齢は34歳のまま、永久に歳をとらない。

けれど作家は歳を重ねる。読者も歳を重ねる。

ある感慨というのは、有栖川有栖氏も歳を重ねたんだなということ。当然のことだけど(笑)それは作品の傾向というのかなぁ、ここ数年新作を読むと感じていた違和感、それが作家が年を重ねたから、という理由にあるのでは?私は気が付いた。

年を重ねないと書けない内容になっている。この作品集には、それが特に強く出ている感じがるする。 

「探偵・青の時代」は文学的。ミステリというより、青春小説のよう。(これはこれで面白い)。

私はどちらかというと、初期作品ミステリのほうが、好みで美しい本格推理だと思っている。有栖や火村の過去よりも、火村の美しいロジックがどう導き出されるかのほうに興味があったけれど、作品の傾向が変わるのは長く続いたシリーズものでは避けられない宿命かと思う。

火村は年をとらない。それは火村・有栖には不幸なことじゃないかな~二人ともどんどん老成してしまう。

人は年を重ねた方が、やりやすいこともある、結婚もしたほうがいいに決まっている(?) ワトソンも家庭をもったのだから、歳を重ねてもいいかなぁと思う。歳を重ねないと分からない感覚が、火村にはすでにある。悩ましい力かも。状況が変われば逃げ道もあるけれど、逃げ道もなく永遠の34歳は、謎解きに没頭し、見たくないものを見続けなくてはいけない。

火村はサイコパスではない。若い時は誰かを殺したいほど憎むことがあってもおかしくないと思うし。悪夢にうなされることもある、

私は火村が好きだし有栖も好きだ。だから、たまには年を取らせてあげて欲しい。精神だけ老成し、肉体が若いままの火村の憂鬱も歳を重ねれば、解決するだろうから。

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