シェークスピアの「ジョン王」(小田島雄志訳、Kindle)を読んだ。これは今月、小栗旬、𠮷田鋼太郎主演の演劇に行く予定なので事前の勉強のためだ。ジョン王は出生時に父ヘンリー2世から領地を与えられなかったから「失地王」と呼ばれている。失政を重ねたことから国内諸侯の怒りを買い、王権を制限する「マグナカルタ」に署名されられたことで有名だ。
あらすじは
年若い王位継承者のアーサーに代わってイングランド王になったジョンに対し、アーサーの母コンスタンスはフランス王に援助を求め、戦争になろうとする。ジョン王とフランスのフィリップ王はお互いの利益から和解し、アーサーはイングランドに連れて行かれる。ジョン王はローマ教皇から破門され、フランスはイングランドを攻撃する。ジョン王はアーサーの目を潰そうと腹心のヒューバートを遣わせるがアーサーの懇願でアーサーを死んだことにして助ける。国内の貴族たちはジョン王がアーサーを殺したと聞き、フランス側につこうとする。ジョン王は手を下したヒューバートを激しくなじるがアーサーは生きていると聞かされほっとする。しかし、アーサーは城から逃げだそうとして落ちて死ぬ。追い詰められたジョン王はやむなく教皇に屈服し、その直後、病死する。
このKindleのジョン王には本文だけで解説はついていない。他のKindle本では解説もついているものもあるが、この本はKindle用に翻訳されたものなのか? 福田恆存さんのような細かく難しい解説はいらないが、ある程度の解説は作品理解のためにほしいところだ。
シェークスピアの戯曲が好きなのは、いろんな演劇やオペラなどで原作として利用される機会が多いことと、教訓じみた台詞が多いためだ。このジョン王の中で教訓じみた箇所を少しだけ記載しておこう。
(私生児) 多少はお追従の気味がないと、この世にあっては受け入れられず、いわば時代の私生児になるしかない。外なる飾りで見せかけるだけでなく、内なる心の奥底から、時代の口にあるような甘い、甘い毒を提供する義務がある。人をだますためにそれを使う気はおれにはない、だが人にだまされないために習い覚えて起きたい、甘いことばが出世の階段を日田上るおれに振りまかれるだろうからな。
(ジョン王) 「利益」という名のおべんちゃら野郎だ、世の中をねじ曲げる錘(おもり)野郎だ、世の中はそれ自体ちゃんとバランスが取れているので、本来まっすぐな道をまっすぐ進んで行くものであるのに、この利益ってやつ、この邪道へと足を引っぱる錘野郎、この世の中の動きの支配者、この便宜主義者が、その方向、目的、進路、目標を強引にねじ曲げ、公正な道を踏み外して突っ張らせてしますうのだ。だがどうしておれは、利益ってやつをののしるんだ。おれがまだやつに言い寄られたことがないからだ。
この物語の主人子はタイトルになっているジョン王ではなくジョン王の兄獅子親王リチャードの私生児だと思う。私生児という正当な身分でないがために斜に構えて皮肉っぽい教訓をを吐く。
また、この当時の教会の力の強さというものを改めて認識させられる。王が教会のいうことを聞かないと「破門する」と殺し文句を言われる。破門されると精神の安定を得られないので最後は教会に屈する(有名な「カノッサの屈辱」がある)。教会の方が国を超えたネットワークがあり、また、信者からは懺悔でいろんな話を聞いている、これらを武器に教会側も世俗側に言い寄って利益を得た面もあるのだろう。今の世の中、さすがにこれはなくなったのかな?