新国立劇場でファルスタッフを観た。2004年新国立劇場でプレミエ。今日の座席はC席7,315円で4階の中央やや右側。1階席やオーケストラピットは全く見えないが舞台は全部見えた。チケットオフィスにはD席は完売とでていたがD席は数が少ないので直ぐ完売するのであろう。全体的には8割くらいの埋まり具合か。4階はシニアが多い感じがした。
劇場の説明によれば、ファルスタッフはオペラの巨人ヴェルディがシェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』『ヘンリー四世』をもとに、人生最後に手がけた喜劇。強欲ながら愛すべき老騎士ファルスタッフを中心に、快活で機知あふれる女性陣や若いカップルらが繰り広げる、無類の楽しさと人生哲学にあふれた傑作、とのこと。
また、ジョナサン・ミラー(英、2019年、85才没)の演出は、17世紀オランダ絵画に描かれた民衆の日常を踏まえ、深い人間洞察が感じられる名舞台。緻密な構図、静謐な色遣いの舞台はフェルメールの風俗画から飛び出したようだ、と説明されている。実際、その通りだった。床のデザインや部屋の窓からの光線の差し込み、リュートという楽器を持つ女性など、その舞台の構図はフェルメールの絵そのもので大変印象に残った。
あらすじ
【第1幕】
ファルスタッフは、ページ夫人メグとフォード夫人アリーチェが自分に気があると勘違いし、彼女たちへ恋文を書く。手紙を受け取ったメグとアリーチェは全く同じ文面であることに呆れ、女性陣で懲らしめようと画策する。一方フォードもファルスタッフをやりこめようと意気込む。
【第2幕】
フォードは偽名を使い「アリーチェを誘惑してほしい」とファルスタッフに頼む。ファルスタッフがアリーチェを口説いていると、メグが来て慌てて逃げるがフォードらが乗り込んでくる。つい立ての向こうには娘のナンネッタとフェントンが。フォードは怒り心頭。洗濯籠の中に身を潜めていたファルスタッフは籠ごと川に投げ落とされる。
【第3幕】
懲りないファルスタッフは再びアリーチェと会う約束をする。ファルスタッフとアリーチェが会うと、助けを求めるメグの声が響く、精霊があらわれたと怖がるファルスタッフは目をつぶって横たわり、これまでのことを謝る。フォードもナンネッタとフェントンの結婚を認める。ファルスタッフは「この世はすべて冗談」と語って大団円。
2幕目の最後のファルスタッフが洗濯籠の中に入れられ、それを召し使い立ちが持ち上げ、よろよろしながら中に入っているファルスタッフをドボンと下の河に落とすところがうまく演技されて感心した。実際にはファルスタッフ役のニコラ・アライモは籠の下の床から脱出していた箱はカラだったと思うが、重そうに持ったり、よろけたり、河に落とすと同時にザブンと言う音が効果的に出されて、うまい演出だと思った。
ところで、ファルスタッフの音楽であるが、印象に残るアリアというものはなかった。普段あまり聴かない演目だからかもしれない、CDも持っていない。ただ、原作の戯曲をオペラ化したものというのは自身の限られた印象だがあまり迫ってくるメロディーというものがない気がしている。「マクベス」、「ロミオとジュリエット」、「サロメ」、「オテロ」など。もちろん個人の感じ方の問題だから、私の知らない良いものがあるとは思うが、そもそも戯曲は福田恆存氏が言うように舞台で演じられる人と言葉の演技であり、これに音楽を乗せてオペラにするという前提で書かれていないせいもあるのではないか、と思っている。どうであろうか。
- 【指 揮】コッラード・ロヴァーリス
- 【演 出】ジョナサン・ミラー
- 【管弦楽】東京交響楽団
- 【ファルスタッフ】ニコラ・アライモ
- 【フォード】ホルヘ・エスピーノ
- 【フェントン】村上公太
- 【医師カイウス】青地英幸
- 【バルドルフォ】糸賀修平
- 【ピストーラ】久保田真澄
- 【フォード夫人アリーチェ】ロベルタ・マンテーニャ
- 【ナンネッタ】三宅理恵
- 【クイックリー夫人】マリアンナ・ピッツォラート
- 【ページ夫人メグ】脇園 彩