テレビで放送されていた「ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタルⅠ、Ⅱ」を観た(NHKクラシック倶楽部)
2010年ショパン国際ピアノ・コンクール第3位、2011年ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第1位、チャイコフスキー国際コンクールでも第1位を受賞し、世界から注目を集めるピアニスト、ダニール・トリフォノフの2024年4月11日サントリーホールでの公演の放送。
曲目
- 新しいクラヴサン曲集RCT5(ラモー)
- ピアノ・ソナタヘ長調K.332(モーツァルト)
- ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調、作品106「ハンマークラヴィーア」(ベートーヴェン)
ダニール・オレゴヴィチ・トリフォノフ(1991年3月ソ連生まれ)はロシア出身のピアニスト。ネットを見ても彼の情報はあまり多くないが、彼自身のホームページを見ると、今後の彼の演奏スケジュールが出ており、例えば8月の演奏会の予定から少し引用すると
2024年8月21日、タングルウッド音楽センター
- ベートーヴェン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第4番イ
- 短調作品23 プーランク:ヴァイオリンとピアノのための
- ソナタ ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調作品78
- バルトーク:狂詩曲第1番
2024年8月28日、ザルツブルク音楽祭
- ラモー組曲 イ短調
- モーツァルト ソナタ第 12 番 ヘ長調 332
- メンデルスゾーン 変奏曲シリーズ、 332 54
- ベートーヴェン ソナタ第29番 変ロ長調 106 (「ハンマークラヴィーア」)
2024年8月29日、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番
- ベルリオーズ「幻想交響曲」
これを見ると結構、ベートーヴェン、モーツアルト、ブラームスなどがありドイツ物が好きなのかもしれない、また、今回放送したサントリーホールでの演目と重なるものもあり、その辺を得意としているのかもしれない。
番組の中で彼は演奏に当たっては一つの解釈にとらわれずにいろいろな演奏を試していると述べている、また、ホールの音響や自身の心境によっても解釈は違ってくるとも述べていた。
今回放送された演目のラモーの「新しいクラヴサン曲集RCT5」は、バロック期のフランスで活躍したラモーが当時の鍵盤楽器クラヴサンのために作曲したもの、モーツァルトのピアノ・ソナタK332はトルコ行進曲と同時期の作品、ハンマークラヴィーアは、実験的な作品で、技巧的にも音楽的にもピアノの可能性を限界まで押し広げた作品
私は今回の演目のうちラモーは初めて聴く曲だし、モーツアルトとベートーヴェンの作品も何度も聴きこんだ作品ではない。今回、この3曲をじっくりと聞いてみると、一番印象に残ったのは何と初めて聴くラモーの曲だった
ジャン=フィリップ・ラモー(1683 - 1764)は大器晩成型であったらしく、39歳の1722年にパリに出てそこでその年に「和声論」を出版して、音楽理論家として有名になる。しかし、最初の成功作は抒情悲劇『イポリートとアリシー』 で、そのとき彼はすでに50歳であったという。
ラモーは活動の初期には教会オルガニストやクラヴサン曲集などを出していたが、50歳以降20曲ほどのオペラを書き劇場用作曲家としての名声を得た。
今回聴いたのは、そんな彼のクラヴサン曲集をモダン・ピアノで演奏したもの、これは組曲で、内容は以下の通り
① アルマンド (Allemande)
② クーラント (Courante)
③ サラバンド (Sarabande)
④ 3つの手 (Les trois mains)
⑤ ファンファリネット (Fanfarinette)
⑥ 勝ち誇った女 (La triomphante)
⑦ ガヴォットと6つのドゥーブル (Gavotte et 6 doubles)
初めて聴く曲なので、あまり期待もせずに聞いていたら、最後の⑦に入ったところで、ガツンと頭を叩かれるようなショックを受けた、⑥までは何となく退屈な曲だなと思っていたら、⑦に入ると、美しく、そして劇的な展開を見せる曲に大転換したからだ。
この⑦ガヴォットは、これだけで単独で演奏されることもある8分くらいの曲、YouTubeでこの曲をどんな人が弾いているのか調べてみると、日本人の若手ピアニスト務川慧悟(1993生れ)がQueen Elisabeth Competition Piano 2021年の Semi-finalで弾いた曲であった(その時、彼は3位入賞)。
こんな素晴らしい曲は知らなかった、トリフォノフの演奏も務川の演奏も素晴らしかった。偶然だが、この曲に巡り合えたことを喜びたい。
音楽ホールに聴きに行くときも、テレビの放送を見るときも自分の好きな曲がある公演のみを選ぶ傾向があったが、これでは膨大な作品数のあるクラシック音楽の良さを十分に味わえないな、と感じた。
Rameau Gavotte et six doubles | Keigo Mukawa - Queen Elisabeth Competition 2021
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