詩人山本十四尾さんが古河文学館で続けていた詩の会「花話会」がその活動を閉じられてから少し時間がたった そこに集まった人たちの詩誌「衣」は引き続き30名ぐらいの執筆でにぎやかな紙面を保っている 山本さんから送って頂いた「衣」58号(2023.7.23発行)を開いていた 青柳俊哉さんの言葉の世界はずっと魅力なのでいつも楽しみにしている詩人なんだ 時節柄「あじさいの森」という詩があった
あじさいの森
あじさいの森へ行く 雨の色が すべての花びらを 通過して 土のうえを青くながれる
花びらを食む 一頭の蛾の幼虫 月の黄土色に染む
花びらがすべて 藤色の蛾へかわるとき 雲は 海辺を巡礼する黒衣の女の 行列のように 空を渡っていく
色彩は世界の外にあり 水のふる 透明な空へ あじさいが飛び立つ
青柳さんの透視できるこころの目からはいつも新鮮な喜びが届けられる 次の詩「月華」もそうだ
月華
無数の水紋 花のしるしのような 月の表面を めぐる 光とかげの境界
そのうえで 羽搏いている 光にも かげにも属さない ゆらぎのなかにしか 生存できないもの 薄羽かげろうの 虚数の 花のうえに透ける 冬蝉の羽
世界があることに 秘されている 思いのかたち 水の指紋の ような月華
比較できる生存を認識できるうつくしいことばではないかと 羨ましい
詩集「衣」より引用させていただきました