旧暦9月13日 今夜は二夜の月の名月

2022-10-08 21:58:53 | 
今、冴え冴えと十三夜の月と木星が輝いている
こんな夜はこの詩がぐいぐいくるよ
草野心平さんの第一詩集「第百階級」におさめられた詩
「ヤマカガシの腹の中から仲間に告げるゲリゲの言葉」の蛙の声は
もう理屈抜きでグサグサ俺に突き刺さってくるよ

  痛いのは当り前じゃないか。
  声をたてるのも当りまへだらうじやないか。
  ギリギリ喰はれているんだから。
  おれはちっとも泣かないんだが。
  遠くでするコーラスに合はして歌ひたいんだが。
  泣き出すことも当り前じゃないか。
  みんな生理のお話じゃないか。
  どてっぱらから両脚はグチヤグチャ喰ひちぎられてしまって。
  いま逆歯が胸んところに突きささったが。
  どうせもうすぐ死ぬだらうが。
  みんなの言ふのを笑ひながして。
  こいつの尻っぽに喰らひついたおれが。
  解りすぎる程当然こいつに喰らひつかれて。
  解りすぎる程はっきり死んでゆくのに。
  後悔なんてものは微塵もなからうじゃないか。
  泣き声なんてものは。
  仲間よ安心しろ。
  みんな生理のお話じゃないか。
  おれはこいつの食道をギリリギリリさがってゆく。
  ガルルがやられたときのやうに。
  こいつは木にまきついておれを圧しつぶすのだ。
  そしたらおれはぐちゃぐちゃになるのだ。
  フンそいつがなんだ。
  死んだら死んだで生きてゆくのだ。
  おれの死際に君たちの万歳コーラスがきこえるように。
  ドシドシガンガン歌ってくれ。
  しみったれ言はなかったおれじゃないか。
  ゲリゲじゃないか。
  満月じゃないか。
  満月はおれたちのお祭じゃあないか。


〈みんな生理のお話じゃないか。〉
〈後悔なんてものは微塵もなからうじゃないか。〉
〈死んだら死んだで生きてゆくのだ。〉
この肝っ玉の坐った言葉がたまらねえよ
もう最後は悔し涙をおさえながらシンバルを乱れ打ちだね
〈しみったれ言はなかったおれぢゃないか。
 ゲリゲぢゃないか。
 満月ぢゃないか。
 満月はおれたちのお祭ぢゃないか。〉

そうだよ、二夜の月のとびっきり上等な、今夜の名月だぜ
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出土品

2021-07-07 09:18:02 | 
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木陰で

2021-02-07 02:51:46 | 
  木陰で         


町工場の工作機械の唸り音
潤滑油の焼ける匂い
螺旋状に立ち上がる切子
防護眼鏡を着けた長身の男

男から送られた機関紙「二流文学」を手に
瞼の裏の駒を送る
わたしたちのガリ刷りの同人誌「走る馬」
蝋の原紙を彫った鉄筆の感触
ジョークで眠気を払った深夜の作業
京都の鰻の寝床といわれる男の住まいで
天井の小さな明り取り窓を見つめ
「クロイツェルソナタ」は金ちゃんのお気に入り
「エグモント序曲」はゲタやん
「レオノーレ序曲第三番」はぼく(高さん)のおすすめ
ベートーベンで疲れをほぐした

わたしたちの出会いから五十年の歳月を
問い返してみる
これで良かったのかと
男が送ってきた「二流文学」から
その答えが返っている

年に一度だけ京都駅近くの居酒屋で酌み交わす酒
己の言葉に酔い 翻弄され
この馬鹿さ加減は五十年前と変わらない
わたしたちは立派なロマンの残党だ

古都で聴覚の不自由な妻と暮らす男
彼はまだ燃えているか
わたしは今燃えているか
これで良かったと 確かめる
ムクノキの木陰で
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詩・・・「存在しない」

2018-04-15 09:24:54 | 
      存在しない
    
    来る日も来る日も
    そう言われると
    困ってしまうじゃないか
    文書だけじゃなく
    消した言葉も
    書き換えた文言も
    ないはずのものが
    あるはずがない
    記憶がない

    そう言われると
    いかにも
    ぼくは
    存在しない
    影も形も
    あったはずのものが
    いつからか
    ない
           
    いまここにいる
    ぼくは
    都合よく
    描き変えられた
    もの
    誰れかに
    その誰かとの
    関係は
    繰り返し
    改竄され
    或いは
    描き変えられて 
    定かではない
    つまり何も存在しない
    当然その誰かも
    存在しない

    斯くして
    来る日も来る日も
    知らぬ存ぜぬ
    を貫き通して
    ぼくは
    迷宮入りの
    もの
    そのものとして
    ふてぶてと
    存在している
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詩・・「感じなきゃ」

2018-01-04 16:54:02 | 
      感じなきゃ

ダウンジャケットは脱いで
耳あてなんかしないで
手袋もはめないで
冷たい空気を
鼻から吸って口から吐き
きっとつぶった目に
涙をにじませて
陽射しを浴びてあったかそうな雲に向かって
俺だってと
寒さも冷たさも
身体で感じながら
胸を張って歩こう

冬だもの
1月だもの
外は北風ビュンビュンだって
水はキリキリ手は凍りそうでも
ガス給湯器に頼らず
ゴム手袋をして洗い物を済ませ
ストーブも点けず
スキーヤッケを着込んで
寒さと対決する
がまんする

冬だもの
1月だもの
布団は冷たくたって
体温であったまる
寒くてあたりまえ
冷たくてあたりまえ
身体をはって感じなきゃ
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