あったまる詩

2017-02-10 09:57:04 | 
トリプル寒波の第二波を待っています。雲の僅かな隙間からやさしい朝陽が射しています。ずっとストーブ番のルルに、「ほら今のうちに外へ行っておいで」とベランダの戸を開けたけど、全くその気なし。冷たい風が吹き込んできたからです。今朝、目玉焼きを作っている時に思い出しました。こんなあったかい詩がありました。

    目玉焼き  ひろせ俊子

  殻を割られて
  フライパンのなかに
  勢いよくすべりこむ
  ふたつの卵

  後からきた卵の黄身ガ
  待っていた黄身の傍に
  すっと寄り添った

  恋しい者たちが
  気持ちを抑えきれない
  というように
  懐かしい者たちが
  やっと再会できた
  というように

  ふたつの卵は
  フライパンのなかで
  なにやら沸々と
  肩をよせ合っている
  なんのてらいもなく
  なんのうたがいもなく

                 「ひろせ俊子詩集 燕」より

三年前に静岡県三島市で、ひろせさんの朗読を聞きました。その時は「悲しい竜」という詩でしたけど、「女のなかには / 一筋の川 / そこに棲む竜がいる / 悲しい竜を棲まわせる川がある」で始まる詩の最後の二行「ああ / 目を覚ましてしまう」を朗読でリフレインさせた詩人の心の響きが今でも記憶に残っています。この詩集には次のような詩も収められています。

    誕生日の朝

  誕生日の朝
  テーブルに
  お赤飯がありませんでした
  おかあさんはゆうべ
  支度をわすれたのです

  こどもは
  いいよと言ったけど
  お仕事の帰りに買ってこようかと
  きいてみました
  こどもは
  ふと悲しそうな顔をして
  買ったのはいや
  とつぶやきました

  おかあさんは
  とても恥ずかしくて
  それからちょっと
  うれしかったのです

「買ったのはいや」の一行にキュンときてしまいました。「待っていた黄身の傍に / すっと寄り添った」目玉焼きの詩、冷たい朝がポワ~ンとあったまりました。
コメント
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