遠来の客

2016-06-17 00:35:19 | 日記・エッセイ・コラム
私は奈良県の西の端の方に住んでいる。竹内峠(たけのうち)を越せば大阪府である。こんな遠いところへ先日、静岡県御殿場市と神奈川県逗子市から友人三人が訪ねて来てくれた。かつての詩の仲間たちだ。昨年私が前ぶれもなく突然沼津市の住まいを引き払ってこちらへ来てしまったので、様子を見に来てくれたのである。私は近鉄阿倍野橋駅で三人を出迎えて、当麻寺まで案内した。一つ手前の駅で降りて二上山の麓の近畿自然歩道を歩きながら再会を喜んだ。道の駅「当麻の家」の名物、焼きこんにゃく、菊芋コロッケなどをすすめながら、まず360度空のこの風景を自慢した。近在には商店というものがない。信号は下を貫くバイバスにあるだけである。ゆったりと浮かぶ友達のような雲のひとつひとつ、家々の玄関先に置かれた色とりどりの花々、瓦屋根の並びの芸術的な美しさ、道すがらのそれぞれの佇まいに、私が突然ここに来た理由がわかってくれたふうだった。三人とも当麻寺は初めてだった。そのあるがまま故の風格の東西の三重塔を私は見て欲しかった。逗子の友人は二上山を背にした本堂の姿など、盛んにカメラに納めていた。当麻寺駅前の中将堂本舗でよもぎ餅をいただいたが、その安さに驚いていた。「鎌倉なら1000円は取るよな」などと。その後、大和三山を見たいという希望で甘樫丘に登った。5時前で日没にはまだ間があったが数人が三脚を立てていた。その日没を偶然、宿をとっていた高田市の駅のホームで見ることが出来た。二上山の雄岳の斜面をゆっくりなめるように沈んでゆく夕日は感動だった。逗子の友人とホームの端まで行って何度もシャッターを押した。次の日は三人がそれぞれ別行動だというので夕食を一緒に楽しんだ後、またの出会いを約束して別れた。たまたま一週間前に当麻寺で二十五菩薩来迎の練供養会式があった。遠くからはるばる来てくれた三人は私にとっては、とてもありがたい三菩薩であった。

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